おうち療育ヒント集

【応用編】発達障がいのあるお子さんが家庭での役割を通じて責任感と自己肯定感を育む具体的なヒント

Tags: 発達障がい, 家庭療育, お手伝い, 責任感, 自己肯定感

ご家庭でお子さんとの関わりを日々工夫されている保護者の皆様、いつもお疲れ様です。基本的な生活スキルや声かけの方法は実践されてきた中で、次にお子さんの成長をさらに促すステップとして、家庭での役割やお手伝いについて関心をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

家庭での役割は、単に家事を手伝うということ以上に、お子さんが「自分も家族の一員である」ことを実感し、責任感を育み、そして何より自己肯定感を高めるための素晴らしい機会となり得ます。発達障がいのあるお子さんにとって、指示の理解や手順の遂行が難しく、お手伝いがスムーズに進まない場合もあるかもしれませんが、適切なサポートと視点を変えた関わりによって、これらの経験はお子さんの大切な成長の糧となります。

この記事では、発達障がいのあるお子さんが家庭での役割を通じて、どのように責任感と自己肯定感を育んでいくのか、そしてそのための具体的なヒントや声かけの方法について、応用的な視点からご紹介します。

なぜ家庭での役割がお子さんの成長に繋がるのか:応用的な視点

家庭での役割は、お子さんにとって多くの学びの機会を提供します。応用的な視点で見ると、それは単なる「家事のお手伝い」にとどまりません。

まず、「家族の一員としての貢献」を実感できる点です。自分が何かをすることで家族が喜び、助かっているという感覚は、「自分は必要とされている」という強い自己肯定感に繋がります。これは、将来社会の一員として役割を担う上での基礎となります。

次に、任されたことを最後までやり遂げる経験は、責任感を育み、自己効力感(自分にはできるという感覚)を高めます。たとえ小さな役割であっても、「これをやるのは自分の仕事だ」という意識を持つことは、将来の学習や仕事への取り組みにも良い影響を与えます。

さらに、お手伝いの過程で、段取りを考えたり、時間内に終わらせる工夫をしたり、予期せぬ問題(例えば洗ったはずなのに汚れが残っている)に気づいて対処したりといった、応用的な実行機能や問題解決能力が自然と養われます。

これらの経験は、お子さんの「個性」を活かし、伸ばすことにも繋がります。例えば、綺麗好きなお子さんなら掃除や整理整頓、体を動かすことが好きなら買い物や荷物運びなど、お子さんの特性や興味に合った役割を見つけることで、得意なことを通じて貢献する喜びを知ることができます。

お子さんに合った役割を見つける・決める具体的なステップ

お子さんに家庭での役割を持ってもらうためには、まずはどのような役割がお子さんに合うかを見つけることから始めます。ここでは、いくつか具体的なステップをご紹介します。

  1. お子さんの特性、興味、発達段階を考慮する

    • お子さんが何に興味があるか、どのようなことに時間をかけるのが好きか、どのような作業が得意か、苦手なことは何かを観察します。
    • 現在の発達段階で、どこまで理解し、どのような手順で進められるかを考慮します。例えば、まだ手順の理解が難しい場合は、「これはここに入れる」といった単純な分類から始め、徐々にステップを増やしていきます。
    • 視覚優位のお子さんには、絵や写真で手順を示すと分かりやすいです。
  2. 成功体験を積み重ねやすい簡単な役割から始める

    • 最初から難易度の高い役割ではなく、お子さんが取り組みやすく、達成感を味わいやすいものを選びましょう。例えば、「自分の靴を揃える」「食べ終わった食器をテーブルの上に置く」「使ったおもちゃを元の場所に戻す」など、短時間で完了できるものが適しています。
    • 成功体験は、次のステップへの意欲に繋がります。
  3. 「強制」ではなく、「一緒に考える」「選ぶ」プロセスを重視する

    • 保護者が一方的に役割を割り当てるのではなく、「〜のお手伝いがあると助かるんだけど、どれならできそうかな?」といった声かけで、お子さん自身に選んでもらう機会を作ります。選択肢をいくつか提示するのも良い方法です。
    • 「一緒にやってみようか」と誘い、最初は保護者の方も一緒に取り組み、徐々にお子さんに任せていく形も有効です。
  4. 視覚的なリストやチェックリストを活用する

    • 役割の内容や手順を、絵や写真、文字でリスト化し、見える場所に貼っておくと、お子さんが自分で確認しながら進めやすくなります。
    • 役割が終わるごとにチェックをつけられるようにすると、達成感が得られます。
  5. 年齢や成長に応じた役割の調整

    • お子さんの成長に合わせて、役割の内容や難易度を少しずつ上げていきます。例えば、食器をテーブルに置くことから、シンクに運ぶ、軽くすすぐ、食洗機に入れる、拭いて元の場所に戻す、といったようにステップアップします。
    • お子さんの「できたこと」が増えたら、その成長を具体的に伝え、次のステップを一緒に考えてみましょう。

主体的な取り組みを促す声かけとサポート:応用編

役割を決めたら、次はその取り組みをサポートする声かけや環境作りが重要です。

  1. 協力を促す声かけの例

    • 「〜のお手伝い、お願いできるかな?」「〜してくれると、ママ/パパ、すごく助かるんだ」「〜が終わったら、△△(お子さんの好きなこと)をする時間にしようか」のように、お子さんの行動が誰かの役に立つことや、その後の楽しい活動に繋がることを伝えます。
    • 「〜のやり方、覚えているかな?一緒に確認してみようか」「もし分からなくなったら、いつでも聞いてね」と、サポートの意思表示をすることで、お子さんの不安を軽減します。
  2. 結果だけでなく、プロセスや努力を具体的に褒める

    • 単に「できたね」だけでなく、「〇〇が自分で(手順の)〜までできたね!」「△△を最後まで頑張ってくれてありがとう」「丁寧に片付けようとしてくれたのが伝わったよ」のように、具体的な行動や努力を言葉にして褒めます。
    • 完璧にできなくても、取り組んだこと、努力したこと自体を肯定的に評価します。「もう少し□□すると、もっと良くなるね。次は一緒にやってみようか」といった建設的なフィードバックも、次への意欲に繋がります。
  3. 困っているサインに気づき、具体的なヒントや物理的なサポートを提供する

    • お子さんが手が進まない、イライラしているなどのサインに気づいたら、「何か困っていることはある?」「難しかったら、□□のところから一緒にやってみようか」などと声をかけます。
    • 言葉での指示が通りにくい場合は、ジェスチャーで見せる、実際に手を取って一緒にやってみる、道具を使いやすく工夫する(例:物の定位置を分かりやすくする)など、物理的なサポートを取り入れます。
  4. 役割の完了を視覚的に示す工夫

    • チェックリストに印をつけるだけでなく、終わった場所の写真を撮って貼る、家族みんなで見える場所に「〇〇(お子さんの名前)のおかげで助かりました!」といった感謝のメッセージを貼るなど、達成を視覚的に共有することで、貢献感を高めます。ご褒美を与えるのではなく、「ありがとう」「助かったよ」といった感謝の言葉やスキンシップで伝えることが、内発的な動機付けに繋がります。
  5. 失敗した場合の捉え方

    • 失敗は成長の機会と捉えます。例えば、物を落としてしまった場合、「大丈夫だよ、誰にでも失敗はあるよ。どうすれば元に戻せるかな?」と一緒に考えたり、「次はこうすると落としにくいかもね」と具体的な対策を伝えたりします。失敗を責めるのではなく、そこから何を学べるか、次にどう活かすかという視点を持つことが大切です。

家族全体での取り組みと長期的な視点

家庭での役割は、お子さんだけでなく家族全体で取り組むことで、より効果が高まります。

まとめ

発達障がいのあるお子さんが家庭での役割を持つことは、責任感や自己肯定感を育む上で非常に価値のある経験です。それは単なる家事手伝いではなく、お子さんが「自分はできる」「自分は家族に必要とされている」と感じ、将来の自立や社会参加に向けた大切な一歩となります。

焦らず、お子さんのペースに合わせて、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。お子さんの特性や興味を理解し、具体的なステップで役割を決め、ポジティブな声かけと柔軟なサポートを続けることで、お子さんはきっと家庭での役割を通じて、自分自身の可能性を広げていくでしょう。

ご家庭での温かいサポートが、お子さんの「自分らしさ」を輝かせ、自信を持って社会と関わっていく力となることを願っています。一人で抱え込まず、必要に応じて専門機関や他の保護者の方と情報を共有し、繋がりを持つことも大切にしてください。