【経験者向け】発達障がいのお子さんの「自分らしさ」を肯定的に理解し、周りに伝える力を育む家庭での応用ヒント
発達障がいのあるお子さんの自己理解を深めるサポート:家庭でできる応用的なアプローチ
お子さんの成長とともに、保護者様はお子さんの発達特性に対する理解を深め、多様なサポートを実践されてきたことと思います。基本的な対応に加え、次なるステップとして大切になるのが、お子さん自身が自分の特性を理解し、肯定的に捉え、必要に応じて周りの人に伝える力を育むことです。これは、お子さんが将来、よりスムーズな人間関係を築き、自己肯定感を持ちながら社会で生活していく上で非常に重要なスキルとなります。
この自己理解を深めるサポートは、発達段階に応じて様々なアプローチが考えられます。この記事では、基本的な知識をお持ちの保護者様に向けて、家庭で実践できる、一歩踏み込んだ応用的なヒントや声かけのコツをご紹介します。
なぜ自己理解と「伝える力」が必要なのでしょうか?
お子さんが自身の発達特性を理解することには、以下のようなメリットがあります。
- 自己肯定感の向上: 自分の「苦手」だけでなく「得意」や特性の良い側面に気づき、自分自身を肯定的に受け入れやすくなります。
- 困難への対処: なぜ特定の状況で困るのかを理解することで、パニックになりにくくなったり、困った時の対処法を自分で考えやすくなったりします。
- 他者との関係構築: 自分の特性を信頼できる人に伝えられることで、誤解を防ぎ、必要なサポートを得やすくなります。孤立感を軽減し、安心できる関係を築きやすくなります。
- 将来への準備: 思春期を経て、進路選択や就労を考える上で、自身の特性を理解し、それを踏まえて環境を選ぶ、あるいは必要な配慮を求める力は不可欠となります。
家庭でのサポートは、この自己理解の土台を築き、お子さんが安心して自分自身と向き合える環境を提供することにあります。
家庭で実践する自己理解サポートのステップと具体的な方法
自己理解は一度に完成するものではなく、お子さんの発達段階に応じてゆっくりと進めていくプロセスです。ここでは、家庭でできる応用的なステップと具体的なアプローチをご紹介します。
ステップ1:保護者様が「お子さんの特性」をより深く客観的に理解する
お子さんが自分自身を理解するためには、まず保護者様がお子さんの特性をより深く、客観的に理解していることが重要です。
- 具体的な行動の観察: どのような状況で、どのような行動や反応が見られるかを具体的に記録してみましょう。「落ち着きがない」だけでなく、「座って作業するのが10分以上続くと体が動いてしまう」「興味のあることには何時間でも集中できる」といった具体的な側面に目を向けます。
- 得意なこと・苦手なことのリストアップ: お子さんが「何が得意で、何が苦手か」を具体的にリストアップします。この際、「苦手」は単なる欠点として捉えるのではなく、「特定の条件下で困難が生じる特性」として客観的に記述することが大切です。例えば、「集団での指示理解が難しい」といったように、具体的な状況を添えます。
- 専門機関の活用: 必要に応じて、心理士や医師、作業療法士などの専門家との相談を通して、お子さんの特性についてより専門的な視点からの理解を深めることも有効です。検査結果などを参考に、お子さんの発達プロフィールを把握します。
ステップ2:お子さんと一緒に「自分の特性」を言葉にする
お子さんが自身の特性に気づき始めたら、それを理解しやすい言葉で表現することをサポートします。
- 日常の出来事を一緒に振り返る: 何かうまくいかなかった出来事や、逆にうまくいった出来事について、お子さんと一緒に振り返ります。「あの時、大きな音がしてびっくりしたね。〇〇君は大きな音が少し苦手なのかもしれないね」のように、出来事と特性を結びつける声かけをします。
- 視覚的なツールの活用: 言葉での説明が難しい場合は、イラストや図、チェックリストなどの視覚的なツールを活用します。「かんしゃくがおきやすい時」「落ち着いて過ごせる場所」などを一緒に書き出すのも良い方法です。
- 特性の「名前」をつける: 抽象的な概念を理解しやすくするために、お子さんの特性にニックネームをつけることも有効な場合があります。例えば、集中しすぎて周りが見えなくなる傾向があるなら「集中モード」、特定の感覚に敏感なら「センサーくん」のように、お子さんが受け入れやすいポジティブなニュアンスの名前を一緒に考えます。これは特性を擬人化し、距離を置いて客観視する助けになります。
具体的な声かけ例: * 「〇〇が難しい時、どんなどんな気持ちになる?」 * 「△△が得意なのは、すごいことだね!どんな風にできるの?」 * 「音が大きいところが苦手なんだね。そういう時は耳を塞いでも大丈夫だよ」 * 「集中すると、呼ばれても気づかないことがあるんだね。それが〇〇君の『集中モード』なんだね」
ステップ3:「特性」を「個性」として肯定的に捉え直す
苦手なことや困難がある一方で、発達特性には多くの強みや個性も含まれています。それらを見つけ、肯定的に捉え直すサポートをします。
- 強みや得意なことへの注目: 苦手なことばかりに焦点を当てるのではなく、お子さんの強みや得意なことに積極的に注目し、言葉にして伝えます。「細かい作業を続けるのが得意だね」「一度覚えたことは忘れないね」「好きなことにはとことん集中できるね」といった具体的な褒め言葉が有効です。
- 特性の裏返しを伝える: 苦手なことの裏返しが強みである場合があることを伝えます。例えば、「融通がきかない」特性の裏返しは「ルールや手順を正確に守れる」、「変化に弱い」特性の裏返しは「予測できる状況で力を発揮する」といった具合です。
- 「みんな違う」ことの理解: 人にはそれぞれ得意なこと、苦手なことがあること、「みんな同じではない」ことを伝えます。お子さんの特性も、たくさんの「違い」の一つであることを伝え、それを否定するものではないことを教えます。
具体的な声かけ例: * 「すぐに他のことに気が散らないで、一つのことを続けられるの、〇〇君のすごいところだね!」 * 「初めての場所はドキドキするかもしれないけど、知っている場所なら安心できるんだね。そういうタイプの人もいるんだよ」 * 「△△が苦手でも、〇〇は誰よりも得意だね。人には色々な得意・苦手があるんだよ」
ステップ4:周りに「自分のこと」を伝える練習をする
自分の特性を言葉にしたり肯定的に捉えたりできるようになったら、信頼できる人に伝える練習を始めます。
- 伝える相手を選ぶ: まずは、保護者様や祖父母、理解のある親しい友人など、お子さんが安心して話せる相手から練習します。
- 伝える内容と方法を一緒に考える: 何を、誰に、どのように伝えたいのかを一緒に考えます。「大きな音が苦手だから、運動会の時は少し離れていたい」「一度にたくさんの指示が出ると分からなくなるから、一つずつ言ってほしい」など、具体的な困りごとやお願いに焦点を当てると伝えやすいです。
- ロールプレイング: 伝える練習として、保護者様が聞き手になってロールプレイングを行います。うまく伝えられなくても修正を重ね、自信を持って伝えられるようにサポートします。
- 「自分の取扱説明書」作り: 自分自身の特性や、どんなサポートがあると助かるかなどをまとめた「自分の取扱説明書」を一緒に作成するのも有効です。これは、新しい環境に入る際などに、お子さん自身または保護者様から周囲に伝えるためのツールとして活用できます。
具体的な声かけ例: * 「学校の先生に、〇〇が苦手なことを伝えてみる?どんな風に伝えたら分かりやすいかな?」 * 「困った時に助けてもらうために、『実はね…』って自分のことを少しお話ししてみようか」 * 「『大きな音が苦手です。ビックリしやすいので、もし可能なら事前に教えていただけると助かります』って言ってみるのはどうかな?」
応用・発展的な視点と注意点
- 思春期以降のサポート: 思春期になると、自己意識が高まり、自分の特性について悩むことも増えるかもしれません。この時期の自己理解は、将来の進路選択や、自分の特性に合った働き方を見つける上で非常に重要です。オープンに話し合える関係性を維持し、必要であれば専門家やピアサポートグループ(同じような特性を持つ人たちの集まり)を紹介することも検討します。
- 学校や専門機関との連携: 家庭での自己理解サポートで得られたお子さん自身の気づきや言葉は、学校の先生や放課後等デイサービスのスタッフ、相談員などに伝えることで、より一貫性のあるサポートに繋がります。「本人は自分のことをこのように理解しています」「こういう言葉で表現しています」といった情報を共有することで、周囲も本人への理解を深めやすくなります。
- 兄弟姉妹への理解促進: お子さんの特性や、本人がどのように自分を理解しているかを、兄弟姉妹にも年齢に応じて分かりやすく伝えることで、家族全体の理解が深まり、お互いを尊重し合う関係を育む助けになります。
- 無理強いはしない: 自己理解や他者への伝達は、お子さんにとって勇気が必要な場合や、まだ準備ができていない場合があります。お子さんのペースを尊重し、無理強いは絶対にしないことが大切です。
- 専門家への相談: 自己理解が進まない場合、強い自己否定がある場合、他者との関わりで深刻な困難が生じている場合などは、一人で抱え込まず、専門機関に相談しましょう。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが自身の特性を理解し、それを肯定的な「自分らしさ」として受け止め、周りに伝える力を育むことは、お子さんが自信を持って社会で生きていくための大切な土台となります。これは、お子さんの発達段階に合わせて、保護者様が根気強く、愛情を持ってサポートしていくことで育まれる力です。
日常の些細な出来事を一緒に振り返ったり、得意なことに目を向けたり、安心できる場で伝える練習をしたり。これらの家庭での応用的なアプローチは、お子さんが自分自身と向き合い、「自分はこれで良いんだ」と思えるようになるための貴重な経験となります。
保護者様ご自身も、お子さんの特性について学び続ける姿勢を持ち、必要に応じて専門家や他の保護者と繋がることも大切です。自己理解を深めるプロセスを通して、お子さんの個性がさらに輝き、自信を持って未来へ歩み出せるよう、家庭で温かくサポートを続けていきましょう。