【経験者向け】発達障がい児のお金との上手なつきあい方を育む:将来の自立に向けた家庭での応用ヒント
はじめに:お金の理解と管理が将来の自立に繋がる
お子さんの成長に伴い、家庭でのサポートも様々な側面へと広がっていきます。学業や対人関係に加え、将来的な自立を見据えた際に避けて通れないテーマの一つが「金銭管理」です。発達障がいのあるお子さんにとって、お金の価値や使い道を理解し、計画的に管理することは、衝動性や抽象概念の理解の特性から難しさを伴う場合があります。しかし、家庭で段階的に、そして具体的な方法を用いてサポートすることで、これらのスキルは必ず育むことができます。
この記事では、基本的な金銭管理の知識をお持ちの保護者の皆様に向けて、お子さんの発達段階や特性に合わせた、より実践的で応用的な家庭での金銭管理サポートのヒントをご紹介します。お金との健全なつきあい方を学び、将来の自立に向けた大切な一歩を踏み出すための具体的な方法を見ていきましょう。
なぜ金銭管理のサポートが必要なのか?発達特性との関連
金銭管理は、単にお金の計算ができることだけを指すのではありません。収入(お小遣いなど)を得て、支出(欲しいもの)を計画し、場合によっては貯蓄をするという一連のプロセスには、以下のような複数のスキルが関わっています。
- 抽象概念の理解: お金そのものには価値がなく、「交換する媒体」としての価値を理解すること。
- 計画性・実行力: 将来の目標のために現在の支出を抑えたり、複数の選択肢の中から優先順位をつけたりすること。
- 衝動性の調整: 「今すぐ欲しい」という気持ちをコントロールし、計画に基づいた行動を選択すること。
- 時間感覚: 将来の目標達成のために、時間をかけてお金を貯める必要があることを理解すること。
- 情報処理: 予算や価格、残高などの数字情報を正確に把握すること。
発達障がいのあるお子さんの中には、これらのスキルに関連する領域に特性を持つ場合があります。例えば、ADHDの特性による衝動性から計画外の衝動買いをしてしまったり、ASDの特性による抽象概念の理解の難しさからお金の価値が掴みにくかったりすることがあります。これらの特性を理解した上で、お子さんに合ったアプローチで金銭管理を教えていくことが重要です。
家庭で実践する応用的な金銭管理サポート
基本的な「お小遣いを渡す」というステップから一歩進んで、お子さんの年齢や理解度に合わせて、より実践的なスキルを育むための応用的なヒントを紹介します。
1. お金の「価値」をより具体的に理解する
基本的な「100円でこれが買える」という理解から、さらに踏み込みます。
- 労働と対価の関連付け: 家庭内での簡単な役割(お手伝いなど)に対して「賃金」という形でお小遣いを渡す仕組みを取り入れることで、「働くこと(貢献すること)でお金を得られる」という社会の仕組みを疑似体験できます。ただし、これは日常的な手伝いとは別に設定するなど、家庭のルールに合わせて調整してください。
- 物の値段と必要な労働時間: 「〇〇円のゲームを買うためには、△△(家庭での賃金設定)のお手伝いを□日分する必要がある」のように、欲しい物の値段と得るために必要な努力や時間との関連を具体的に示します。
- 複数の買い物をシミュレーション: 限られた予算(お小遣い)で複数の欲しい物がある場合、「どちらを優先するか」「両方買うにはどうすれば良いか(貯める、安い方を選ぶなど)」を一緒に考え、決断する練習をします。実際の買い物リストを作り、事前に予算内で収まるかシミュレーションするのも効果的です。
2. 計画的な使い方と予算管理を学ぶ
衝動的な支出を減らし、計画的に使うスキルを育みます。
- 予算の「見える化」: 1ヶ月のお小遣いを項目別に分けて管理する方法を導入します。例えば、「自由に使うお金」「趣味に使うお金」「貯めるお金」のように、封筒や透明なケース、またはアプリを使って視覚的に分けます。
- 支出の記録と振り返り: 何にいくら使ったかを記録する習慣をつけます。簡単なノート、表計算ソフト、お小遣い帳アプリなど、お子さんが取り組みやすい方法を選びます。1週間や1ヶ月の終わりに「何に使ったか」「これは本当に必要だったか」「計画通りに使えたか」などを一緒に振り返る時間を持つことが重要です。振り返る際は、できた点を肯定的に伝え、次の改善点について優しく話し合います。
- 「欲しいものリスト」の活用: 衝動買いを防ぐために、「今すぐ買わないけれど欲しいものリスト」を作成します。リストを見返す時間を設けることで、一時的な欲求でなく本当に必要なものか、計画的に買うべきものかを見極める練習になります。
3. 貯蓄の概念と実践
将来の大きな目標のために、今使わないという選択肢を学ぶことは、満足遅延のスキルを育む上でも重要です。
- 具体的な目標設定: 「〇ヶ月後に△△円貯めて、□□を買う」のように、具体的で達成可能な目標を設定します。目標が曖昧だと、貯蓄のモチベーションが維持しにくくなります。
- 貯蓄の「見える化」: 目標額に対して現在いくら貯まっているのかをグラフや表で視覚的に示します。貯金箱に色付きのブロックを入れるなど、貯まっていく様子が実感できる工夫も有効です。
- 「ご褒美」の設定: 目標額の半分や、目標達成時に、少しだけ特別なお小遣いを渡すなど、貯蓄を続けることへの肯定的な強化を取り入れることも検討できます。
4. 電子マネーやオンライン決済への慣れ
キャッシュレス化が進む現代社会において、電子マネーやオンライン決済の理解と安全な使用方法を学ぶことも将来の自立には不可欠です。
- 親子で一緒に体験: 最初は少額をチャージした交通系ICカードやプリペイドカードを、親子で一緒に使う練習をします。チャージ方法、支払い方法、残高確認の方法などを具体的に教えます。
- オンラインでの購入練習: 親御さんの管理のもと、欲しいものを自分で探し、購入手続きをする練習をします。この時、「購入確定」ボタンを押す前に一度立ち止まり、本当に必要か、金額は合っているかを確認する習慣をつけます。
- セキュリティと危険性の教育: パスワード管理の重要性、知らないサイトでの購入の危険性、個人情報の取り扱いなど、デジタル時代のお金に関する基本的なセキュリティ知識についても、分かりやすい言葉で伝えていきます。
声かけのコツとサポートのポイント
金銭管理のスキルは、一度教えてすぐに身につくものではありません。繰り返し練習し、成功体験を積み重ねることが大切です。
- 肯定的なフィードバック: 計画通りに使えた、貯蓄目標を達成できたなど、できたこと、頑張ったプロセスを具体的に褒めます。「計画通りに△△円貯められたね!すごいね、□□を買う目標に近づいたね。」
- 失敗を責めない: 衝動買いをしてしまったり、計画通りにいかなかったりしても、失敗を責めずに「どうすれば次はうまくいくか」を一緒に考えます。「今回は衝動買いしちゃったけど、どうすれば防げたかな?次はリストを見てから買う練習をしてみようか。」
- 具体的な指示と視覚的サポート: 「お金を大切に使いなさい」といった抽象的な声かけではなく、「この封筒から今日の予算の〇〇円を出して使いましょう」「お財布に入れるのはこれだけね」のように具体的な行動を示します。チェックリストや手順表、カレンダーへの記入なども有効です。
- 選択肢と自己決定: ある程度慣れてきたら、「この中から一つだけ今日買うものを選ぼう」「お小遣いのうち、貯金に回す分はいくらにする?」など、お子さん自身が考え、決定する機会を増やします。
- 「困ったとき」の対処法を練習: お金が足りなくなったとき、お財布をなくしたとき、怪しい誘いがあったときなど、お金に関するトラブルや困った状況で「誰に相談するか」「どう対処するか」を事前に話し合って決め、ロールプレイングなどで練習しておくことも重要です。
長期的な視点と外部連携の可能性
金銭管理のスキルは、お子さんが社会に出て自立していくための基盤となります。家庭でのサポートは、思春期以降のアルバイト収入の管理、携帯電話料金の支払い、将来の一人暮らしの予算管理、確定申告など、より複雑な課題へと繋がっていきます。
家庭での取り組みに加えて、必要であれば地域の相談支援事業所や金融機関(未成年向けの口座開設や金融教育プログラムなど)に相談することも検討できます。学校の授業でお金について学ぶ機会があれば、家庭での実践と連携させることも有効です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんにとって、金銭管理は学ぶべき重要なライフスキルの一つです。抽象的な概念理解の難しさや衝動性といった特性からサポートが必要となる場合もありますが、これは「できない」のではなく、「具体的な教え方や環境調整が必要」なだけです。
家庭で、お金の価値の理解から始め、計画的な使い方、貯蓄、そして現代社会に不可欠な電子マネーの利用まで、段階的かつ応用的なアプローチで丁寧に教えていくことで、お子さんはお金との健全なつきあい方を学び、将来の自立に向けた確かな力を身につけることができます。
お子さんの「できた!」という小さな成功を肯定的に捉え、粘り強くサポートを続けていくことが何よりも大切です。この記事で紹介したヒントが、皆様の家庭での金銭管理サポートの一助となれば幸いです。