【おうち療育】発達障がい児の変化への抵抗を「安心」に変える家庭での具体的なステップ
発達障がいのお子さんとの日々の中で、予定の変更や場所の移動、新しい環境への適応など、様々な「変化」に直面する場面があるかと存じます。お子さんがその変化に対して強い抵抗を示し、どう対応すれば良いのか悩むことも少なくないかもしれません。基本的な発達障がいの特性に関する知識はお持ちのことと思いますが、お子さんの成長と共に現れる具体的な課題に対して、より一歩踏み込んだ応用的な対応をお探しの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、発達障がいのあるお子さんがなぜ変化に抵抗を示すのか、その背景にある理解を深めながら、家庭で実践できる具体的な声かけやサポートのステップをご紹介します。変化を単なる「問題行動」として捉えるのではなく、お子さんが抱える不安や特性の表れとして理解し、変化を乗り越えるためのお子さん自身の力を育むサポートを目指しましょう。
変化への抵抗の背景にある理解
発達障がいのあるお子さんが変化に抵抗を示す背景には、いくつかの要因が複合的に関わっていると考えられます。基本的な特性として知られていること以外に、経験のある保護者としてさらに深く理解しておくべき点があります。
- 見通しの立てにくさ: 先が見通せない状況や、予測できない出来事に対して強い不安を感じやすい特性があります。これは、出来事の順序や結果を頭の中でシミュレーションするのが難しい場合があるためです。変化は「予測できないこと」の代表であり、お子さんの安心感を揺るがします。
- 感覚処理の違い: 特定の場所や環境の変化に伴う視覚、聴覚、触覚などの感覚入力の変化に圧倒されてしまうことがあります。例えば、新しい場所の賑やかさ、聞き慣れない音、照明の変化などが、感覚過敏を持つお子さんにとっては非常に苦痛に感じられる場合があります。
- こだわりの強さ: 慣れ親しんだ手順や環境、ルーティンに対する強いこだわりは、変化への柔軟な対応を難しくします。これは、安心できる秩序や予測可能な世界を保とうとする自己防衛的な側面も持ち合わせています。
- 過去の否定的な経験: 過去に変化に上手く対応できなかった経験や、変化によって嫌な思いをした経験があると、「変化=怖いもの、嫌なもの」という認識が強まり、抵抗がより強固になることがあります。
これらの背景を理解することは、お子さんの抵抗を否定的に捉えるのではなく、「何に困っているのかな」「どんなサポートがあれば安心できるかな」という視点を持つための第一歩となります。
家庭で実践できる応用的なサポート方法:具体的なステップ
変化への抵抗に対する家庭でのサポートは、事前の準備、変化が起きている最中の対応、そして変化を乗り越えた後のフォローアップという段階に分けて考えると、より実践しやすくなります。
ステップ1:変化を「見える化」し、見通しを伝える
お子さんが安心して変化に臨めるように、事前に変化を具体的に伝える工夫をします。
- 視覚支援の活用: 言葉での説明だけでなく、絵カード、写真、カレンダー、タイムスケジュール表などを用いて、これから起きる変化やその流れを「見える化」します。新しい場所に行く場合は、事前に写真を見せる、地図で場所を確認するなど、視覚情報で具体的に伝えます。
- 具体的な声かけ・行動例: 「明日は〇〇さんの家に行くよ。まずはおうちを出て、電車に乗って、それから〇〇さんの家。〇〇さんの家では、このおもちゃで遊べるよ(写真を見せる)。」
- 予告のタイミング: お子さんの特性に合わせて、予告のタイミングを調整します。あまり早く伝えすぎると不安が募る場合もあれば、直前では心の準備が間に合わない場合もあります。繰り返し伝える必要がある場合、その頻度や方法も考慮します。
- 変化の度合いに合わせて説明を調整: 些細な変化であれば簡単な声かけで済ませ、大きな変化(例:引っ越し、進級)の場合は、時間をかけて丁寧に、何度かに分けて説明します。
ステップ2:変化を受け入れやすくする声かけのコツ
変化の予告や実行の際に、お子さんの不安を和らげ、前向きな気持ちを引き出すような声かけを意識します。
- 共感と受容: まずはお子さんの「嫌だ」「怖い」という気持ちに寄り添い、受け止めます。その上で、なぜ変化が必要なのかを、お子さんが理解できる言葉で簡潔に伝えます。
- 具体的な声かけ例: 「新しい場所に行くの、ちょっとドキドキするね。初めてだから、どんなところか分からなくて不安かな? ママも初めて行く時はそう感じることもあるよ。」
- 肯定的な言葉を選ぶ: 「〜してはいけない」ではなく、「〜しようね」「〜すると良いよ」といった肯定的な言葉で伝えます。
- 選択肢を与える: 可能であれば、変化の過程でいくつか選択肢を与え、お子さんが自分でコントロールできる部分があると感じられるようにします。「この道とこの道、どっちで行きたい?」「着いたらまず何をする?」など。
- 良い見通しを具体的に伝える: 変化の後に待っている楽しいことや、お子さんにとってメリットがあることを具体的に伝えます。「新しい図書館には、〇〇君が好きな電車の絵本がたくさんあるらしいよ!」「新しいおもちゃで遊べる時間があるよ」など。
ステップ3:変化の最中、パニックや混乱が起きた時の対応
事前の準備をしても、予期せぬ混乱やパニックが起きることもあります。その際に冷静に対応するためのステップです。
- 安全確保: まず、お子さんの安全を確保できる場所に移動します。周りに迷惑がかからない場所であれば尚良いですが、まずは安全を優先します。
- クールダウンを促す: 静かで刺激の少ない場所で、落ち着くまで寄り添います。無理に話を聞き出そうとせず、深呼吸を促したり、好きな感覚刺激(安心できるおもちゃ、ブランケットなど)を提供したりします。クールダウンの方法は、普段からお子さんと一緒に見つけておくと良いでしょう。
- 落ち着いてから振り返る: パニックが収まってから、何が原因だったのか、どうすれば良かったかを一緒に(または保護者が)振り返ります。お子さんが言葉で表現するのが難しければ、絵やジェスチャー、選択肢を示しながら確認します。
- 対応策を一緒に考える: 今後同じような状況になった時にどうするかを、お子さんと一緒に考え、共有します。「次は、行く前に〇〇の写真を見ようね」「困ったら、この絵カードを見せてね」など、具体的な行動を決めます。
ステップ4:小さな変化から慣らし、成功体験を積む
大きな変化にスムーズに対応できるようになるためには、日常の小さな変化から慣れていく練習が有効です。
- 日常のルーティンに小さな「変化」を意図的に取り入れてみる(例:食事の席をいつもと違う場所にしてみる、お風呂の順番を変えてみる)。
- 成功したら大いに褒め、達成感を共有します。「少し違う席だったけど、座れたね!すごいね!」「いつもと違う順番だったけど、大丈夫だったね!〇〇君ならできるね!」
- 成功体験の積み重ねは、お子さんの「変化に対応できるかもしれない」という自信につながり、次のステップへの意欲を引き出します。
長期的な視点での関わり:柔軟性を育むために
短期的な対応だけでなく、長期的な視点でお子さんの柔軟性を育む関わりも重要です。
- 多様な経験を提供する: 安全が確保された範囲で、様々な場所に行ったり、多様な人と関わったりする機会を少しずつ持ちます。新しい経験は、変化に対する抵抗感を和らげる助けになります。
- 遊びの中での変化: 遊びの中でルールを少し変えてみたり、いつもと違う方法で遊んでみたりすることで、遊びを通して柔軟性を養います。
- ポジティブな声かけを習慣に: 日常の中で、お子さんが少しでも変化に対応できた時、新しいことに挑戦した時などに、具体的に褒めることを意識します。「初めての場所だったけど、入れたね!」「いつもと違う道だったけど、歩けたね、すごい!」といった声かけは、お子さんの自己肯定感を高め、「やってみよう」という気持ちを育てます。
一人で抱え込まず、サポートとの連携を
家庭での取り組みと並行して、学校や放課後デイサービス、相談機関との連携も非常に重要です。お子さんの家庭での様子や具体的な困り事を共有し、学校や施設での対応と家庭での対応で一貫性を持たせることで、お子さんはより安心して変化に対応できるようになります。専門家からのアドバイスを受けることも、新たな視点や具体的な解決策を見つける助けとなります。
お子さんの変化への抵抗は、成長の過程で変化していくこともありますし、思春期などライフステージの変化に伴って新たな課題が出てくることもあります。保護者だけで全てを抱え込まず、利用できるサポートは積極的に活用してください。
まとめ
発達障がいのあるお子さんの変化への抵抗は、その子の個性や特性に根ざしたものです。この記事でご紹介した、見通しの「見える化」、共感と肯定的な声かけ、パニック時の冷静な対応、そして小さな成功体験の積み重ねは、お子さんが変化を「安心」に変えていくための大切なステップとなります。
これらの具体的な方法を日々の関わりに取り入れながら、お子さんのペースに合わせて、変化への対応力を育んでいきましょう。そして、ご家族だけで頑張りすぎず、周囲のサポートも上手に活用しながら、お子さんの成長を温かく見守っていただければ幸いです。