【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの多様な支援者との連携を深める:包括的サポートのための情報整理・共有応用ヒント
発達障がいのあるお子さんとの向き合い方において、日々の家庭での関わりに加えて、外部の支援機関との連携は重要な要素となります。お子さんの成長段階や環境の変化に伴い、学校や放課後等デイサービスに加え、医療機関、相談機関、時には就労支援機関など、関わる支援者が多様化していくこともあるかもしれません。
基本的な知識をお持ちの保護者の方にとって、これらの多様な支援者との連携をいかにスムーズに行い、お子さんへのサポートをより包括的で一貫性のあるものにしていくかは、新たな課題となり得ます。この記事では、多様な支援者との効果的な連携のための具体的な情報整理・共有方法、そして建設的なコミュニケーションのヒントについてお伝えします。
多様な支援者が関わることの意義と課題
お子さんに関わる支援者が増えることは、それぞれの専門性から多角的な視点でお子さんをサポートできる大きなメリットがあります。医療的なアセスメント、学校での集団生活の様子、療育のプログラムでの取り組み、福祉サービスでの社会スキルの習得など、それぞれの場所で得られる情報は異なります。これらの情報を連携させることで、お子さんの全体像をより深く理解し、個々のニーズに合ったきめ細やかなサポートが可能になります。
一方で、課題も生じがちです。それぞれの機関で情報が分断され、保護者の方がすべての情報のハブとなり、同じ話を何度も繰り返す負担が生じることがあります。また、支援者によってお子さんへの理解や対応方針が微妙に異なる場合、保護者の方が板挟みになったり、お子さんが混乱したりする可能性も考えられます。
効果的な情報整理のヒント
多様な支援者と効果的に連携するためには、まず「お子さんに関する情報」を保護者自身が整理しておくことが非常に有効です。これにより、各支援者に必要な情報を漏れなく伝えられるようになり、支援者もお子さんの状況を速やかに把握しやすくなります。
具体的な整理項目としては、以下のようなものが考えられます。
- お子さんの基本的な情報:
- 氏名、生年月日、診断名(告知しているか、診断に対する保護者の理解度)、主な特性(強み、困りごと)
- 配慮してほしい具体的な事項(感覚過敏への対応、コミュニケーションの特性など)
- 生育歴・発達の状況:
- 幼少期からの発達の様子で特に気になる点
- 現在の日常生活での具体的な困りごと(例: 着替えに時間がかかる、特定の音を嫌がる、予定変更にパニックになる)
- 得意なこと、好きなこと、興味関心の強いこと
- これまでの支援歴:
- 過去に利用した医療機関、相談機関、療育機関、学校、福祉サービスなど
- 受けた検査や診断の結果(可能であればコピー)
- 効果があったサポートや対応、難しかった対応や失敗談
- 現在の支援状況:
- 現在関わっている支援者(氏名、所属機関、連絡先)
- 利用しているサービスの内容、頻度、それぞれの目標
- 具体的な困りごととその対応:
- 保護者が現在最も困っている行動や状況
- それに対して家庭で試している具体的な対応、その効果や難しさ
- 家庭でのルールや目標
- 目標・希望:
- 保護者がお子さんにどのように育ってほしいかという長期的な目標
- 短期的な目標(例: トイレトレーニングの完了、宿題を時間内に終わらせるなど)
- 各支援者に期待すること、保護者自身の希望や不安
これらの情報を、ノート、ファイル、あるいはデジタルツール(スマートフォンのメモアプリ、クラウドストレージ、お子さん専用の記録アプリなど)を活用してまとめておくと良いでしょう。お子さんの「トリセツ」を作成することも、自己理解を深めるためだけでなく、支援者への情報共有ツールとしても非常に役立ちます(既存の記事に詳細がございますので、そちらもご参照ください)。
支援者への具体的な情報伝達・共有のコツ
整理した情報を基に、支援者へ効果的に伝えるためには、いくつかの工夫があります。
- 具体的に、簡潔に、客観的に伝える:
- 「最近落ち着きがない」だけでなく、「〇月〇日、〇〇の場面で、△△という声かけをしたところ、急に立ち上がって走り回った。その行動が□分続いた」のように、「いつ」「どこで」「何を」「どのように」起こったかを具体的に伝えます。
- 主観的な評価(「全然聞いてくれない」「いつも問題を起こす」)ではなく、観察した事実を伝えるように努めます。
- 話が長すぎると、支援者も必要な情報を見失いがちです。要点を絞り、簡潔に伝えることを心がけます。
- 困りごとだけでなく、うまくいったことも伝える:
- 「〇〇の場面では、××という声かけが効果的だった」「△△というルールを導入したら、その行動は減った」など、家庭での成功体験や工夫を共有することで、支援者も家庭での様子を把握しやすくなり、サポートのヒントになります。
- お子さんの良い変化や成長も伝えることで、支援者はお子さんの可能性を感じやすくなり、保護者自身も前向きな気持ちを保ちやすくなります。
- 家庭での具体的な対応とその効果を伝える:
- 「この行動が出た時に、私はこのように対応してみた」「このサポートを試したら、このような変化が見られた」といった情報を伝えることで、支援者は家庭の状況を理解し、より実践的なアドバイスをしやすくなります。
- 写真や動画の活用:
- 口頭や文章だけでは伝わりにくい、具体的な行動の様子や特定の場面での困りごとを伝える際に、写真や動画(プライバシーに配慮し、許可を得た上で)は非常に有効です。
- 成功した場面の動画を見せることで、支援者は家庭でのポジティブな関わり方を理解しやすくなります。
- 連絡帳やメールの活用:
- 対面での面談時間が限られている場合や、急を要さない情報共有には、連絡帳やメールを活用します。事前に伝えたい内容を箇条書きにしておくと、漏れを防ぎやすいでしょう。
- 日々の簡単な様子や体調の変化などを短く伝える際にも役立ちます。
- 分からないことは確認する:
- 支援者が使用する専門用語や、提案された支援内容で不明な点があれば、遠慮なく質問し、平易な言葉で説明してもらうように依頼します。「〜ということでしょうか?」「具体的にはどのような対応が必要ですか?」などと確認することで、誤解を防ぎ、共通理解を深められます。
- 要望の伝え方:
- 支援者への要望を伝える際は、「〇〇してもらえませんか?」と一方的に伝えるのではなく、「〜という課題があり、家庭ではこのように対応しています。何かアドバイスをいただけますでしょうか?」「〜について、学校(または他の機関)と情報共有していただくことは可能でしょうか?」のように、相談ベース、協力ベースで伝えることで、建設的な話し合いにつながりやすくなります。
支援者からの情報を活かす
支援者から受け取ったアドバイスや情報を、家庭でのサポートに効果的に活かすことも重要です。
- 情報の整理と活用:
- 面談や情報交換で得た内容は、メモを取るなどして後で見返せるように整理します。
- 提案された具体的な対応策や声かけの方法を、家庭での状況に合わせてどのように取り入れるかを検討します。
- 疑問点の確認:
- 支援者から受け取った情報やアドバイスについて、不明な点や家庭での実践に不安がある場合は、そのままにせず、次回の機会に確認したり、連絡手段がある場合は問い合わせたりします。
- 支援者間の情報共有を促す:
- お子さんにとって複数の支援者が連携することは、非常に有益です。保護者の同意を得た上で、関わっている支援者間で直接情報交換(合同会議の開催、担当者間の連絡など)をしてもらうよう、保護者から依頼することも有効な手段です。保護者が「情報ハブ」であることに加え、専門家同士の視点交換はより深い理解につながります。
より良い連携関係を築くために
支援者との連携は、単に情報をやり取りするだけでなく、お互いを尊重し、信頼関係を築くことが基盤となります。
- 信頼関係の構築:
- 支援者の専門性を尊重し、感謝の気持ちを伝えること。
- お子さんを支える「チーム」の一員として、共に考え、行動するという意識を持つこと。
- 定期的な振り返り:
- お子さんの状況や支援の方向性について、定期的に支援者と振り返る機会を持つことを提案します。年に一度、お子さんに関わる主要な支援者が集まる合同会議をセッティングすることも、全体像を共有し、今後の方針を統一する上で非常に有効です。
- 目標の共通認識:
- 複数の支援者が関わる場合、それぞれが異なる目標を持ってしまうと、支援がバラバラになる可能性があります。お子さんの全体的な目標や、各機関での短期的な目標について、共通の理解を持つように努めます。
- 保護者自身の状況も伝える:
- 保護者自身の心身の状況や、家庭の事情なども、可能な範囲で伝えることで、支援者は保護者の負担にも配慮したサポートを考えやすくなります。
一人で抱え込まないことの重要性
多様な支援者との連携の窓口となることは、保護者の方にとって大きな負担となる場合もあります。すべてを一人で抱え込まず、必要なサポートを求めることも、お子さんへの長期的な支援を継続していく上で非常に重要です。
地域の相談窓口、発達障がい児者の親の会、ペアレントメンターなど、相談できる場を活用することを検討してください。他の保護者との情報交換も、具体的なヒントや精神的な支えとなることがあります。支援者との連携は、保護者が一方的に頑張るものではありません。チームとして、お子さんを中心に、支援者も保護者も共に支え合いながら進んでいくプロセスです。
まとめ
発達障がいのあるお子さんの成長に伴い、多様な支援者との連携は、より包括的で一貫性のあるサポートを実現するために不可欠となります。情報整理を体系的に行い、具体的な困りごとや家庭での対応、そして良い変化を具体的に伝える工夫をすることで、支援者とのコミュニケーションは円滑になります。
支援者からの情報を家庭で活かし、また支援者間の情報共有を促すことで、お子さんを中心とした「チーム支援」の力は増していきます。信頼関係を大切にし、保護者自身の負担も考慮しながら、必要に応じて外部のサポートも利用してください。この情報が、経験のある保護者の方々が、お子さんの個性を育み、将来に向けたサポートをさらに深めていくための一助となれば幸いです。