【経験者向け】発達障がいのあるお子さんが自分の「特性」を周りに分かりやすく伝える力を育む家庭での応用ヒント
発達障がいのあるお子さんの成長に伴い、ご家庭でのサポートもより応用的な段階に進んでいらっしゃる保護者の方も多いことでしょう。基本的な理解は進み、日々の生活や学習における具体的な課題への対応に試行錯誤されている中で、お子さんが自分の特性を周囲の人にどのように伝えれば良いのか、またそのサポートをどうすれば良いのかという新たな課題に直面されているかもしれません。
お子さんが自分の特性を適切に周囲に伝える力は、誤解を防ぎ、必要なサポートを得やすくするために非常に重要です。これは単に「困りごとを説明する」だけでなく、自己理解を深め、自己肯定感を高める上でも大切なスキルとなります。この記事では、発達障がいのあるお子さんが、ご自身の特性を周囲に分かりやすく伝える力を家庭で育むための、より具体的な応用ヒントをご紹介します。
なぜ「特性を伝える力」が重要なのか
発達障がいのあるお子さんは、感覚の特性、コミュニケーションのスタイル、興味関心の方向性など、様々な特性を持っています。これらの特性は、お子さん自身の「普通」である一方で、周囲の人からは理解されにくい行動や反応として映ることがあります。
お子さんが自身の特性を周囲に伝えることができるようになると、以下のようなメリットが期待できます。
- 誤解やトラブルの回避: なぜ特定の状況で困るのか、なぜ特定の行動をとるのかを伝えることで、周囲の人はお子さんの言動を理解しやすくなります。これにより、不必要な誤解やそこから生じるトラブルを減らすことができます。
- 必要なサポートを得やすくなる: 困ったときに「こういう理由で困っています」「こうしてもらえると助かります」と具体的に伝えられると、相手はどのようなサポートをすれば良いのかを把握しやすくなります。
- 自己理解の深化と自己肯定感の向上: 自分の特性を言葉にすることで、お子さん自身も自分自身を客観的に理解する機会を得られます。「自分はこういう特徴があるんだな」と認識し、それを肯定的に捉えることができるようになると、自己肯定感につながります。
- 将来の自立に向けた準備: 進学や就労など、社会に出た際に、必要な配慮やサポートを自身で求められる力は、自立のために不可欠なスキルとなります。
家庭で「特性を伝える力」を育むための応用ステップ
このスキルは、教えてすぐに身につくものではありません。お子さんの年齢や発達段階、特性に合わせて、段階的に、そして繰り返し練習していくことが大切です。
ステップ1:親がお子さんの特性を言葉にする手伝いをする
まず、保護者の方がお子さんの特性を客観的に理解し、それを分かりやすい言葉で表現する練習をお子さんと一緒に行います。
- 特性の言語化: 「大きな音が苦手」「急に予定が変わると戸惑う」「特定のことに強い興味を持つと、他のことが目に入りにくくなる」など、具体的な行動や感じ方を言葉にします。お子さんが自分の感じ方や反応をどう表現すれば良いか分からない場合に、「こういうことかな?」「〇〇な感じ?」と選択肢を示したり、比喩を使ったりしながら一緒に探します。
- 「トリセツ」の活用: 以前作成した、あるいはこれから作成するお子さんの「取扱説明書(トリセツ)」を見直しながら、「この項目は、人にどう説明できるかな?」と一緒に考えてみましょう。
ステップ2:伝える内容と相手を意識する練習をする
誰に、何を、どのように伝えるのかを考えることは、応用的なスキルです。相手や状況によって、伝えるべき内容は変わってきます。
- 伝える相手による違い: 先生、友達、家族、習い事のコーチなど、伝える相手によって言葉遣いや伝えるべき情報の詳細度を変える練習をします。
- 例:学校の先生には「授業中に周りの音が気になって集中しにくい時があります。席を窓際にしてもらえると助かります」、友達には「ごめん、大きな音は苦手なんだ」、家族には「ちょっと音がうるさいな」など。
- 伝えるべき内容の選択: 自分の特性すべてを話す必要はありません。その状況で最も関連があり、伝えたいこと、伝えるとメリットがあることを選ぶ練習をします。
- 例:クラスメイトとのグループワークで意見がまとまらない時、「自分は一度に複数の指示を聞くのが苦手なので、一つずつ順番に教えてもらえると分かりやすいです」と伝えるなど。
ステップ3:具体的な伝え方の練習(ロールプレイング)
頭で理解するだけでなく、実際に声に出して伝える練習が効果的です。家庭でのロールプレイングを取り入れましょう。
- シナリオ設定: 「もし学校で友達にこういうことを聞かれたら、どう答える?」「もし新しい場所に行って困ったら、誰に、どう伝える?」など、具体的なシナリオを設定します。
- 役割交換: 保護者が聞き手役(先生、友達など)になり、お子さんが話し手役として、実際に言葉に出して伝える練習をします。時には役割を交換し、お子さんが聞き手役になって保護者の伝え方を聞いてみるのも良いでしょう。
- 肯定的なフィードバック: うまく伝えられたら具体的に褒め、「こういう言い方もあるね」「もう少しゆっくり話してみようか」など、建設的なアドバイスをします。
具体的な声かけ・練習例:
- お子さん:「学校で、急に当てられると頭が真っ白になっちゃうんだ…」
- 保護者:「そっか、びっくりしちゃうんだね。先生に『急に当てられると、考える時間が少し欲しいです』って伝えてみる練習をしてみようか? ちょっと言ってみてごらん。」
- お子さん:「友達と遊んでて、急にルールが変わるとイライラする…」
- 保護者:「ルールが変わると戸惑うんだね。友達に『ごめん、急にルールが変わると混乱するから、前もって教えてもらえると嬉しいな』って言ってみるのはどうかな? 一緒に言ってみよう。」
- お子さん:「大きな音が苦手って、どう言えばいいの?」
- 保護者:「『音が大きいとびっくりしやすいです』とか、『苦手なので、少し音を小さくしてもらえると助かります』って言うことができるよ。どっちがいいかな?」
応用的な視点と注意点
- 無理強いしない: 特性を伝えることは、お子さんにとって勇気が必要な場合もあります。「伝えるべき」と押し付けるのではなく、「伝えることで、こんなに良いことがあるかもしれないよ」とメリットを提示し、本人が伝えたいと思ったときにサポートする姿勢が大切です。
- 「苦手」だけでなく「得意」も伝える練習: 苦手なことだけでなく、得意なことや「こうすれば力を発揮しやすい」といったポジティブな側面も伝える練習をすることで、自己肯定感を高めながら、周囲に自分の強みを理解してもらうことにもつながります。
- 失敗を恐れない環境づくり: 伝える練習をしても、必ずしもうまく伝わるとは限りません。伝え方が拙かったり、相手が理解してくれなかったりすることもあるでしょう。そうした経験から学び、「次はこうしてみようか」と一緒に考える機会と捉え、失敗を恐れずに再チャレンジできる環境を家庭で作ることが重要です。
- 伝える以外の方法も検討: 言葉で伝えるのが難しい場合は、絵や文字で書いたものを見せる、事前に保護者が伝えておくなど、言葉以外の伝達方法も選択肢として検討します。
学校や専門機関との連携
お子さんが自分の特性を伝える練習をする際に、学校の先生や放課後等デイサービスの職員など、お子さんが日頃関わる大人と連携することも有効です。
- 情報共有: 保護者から学校などへ、家庭でどのような特性理解や伝える練習をしているかを共有します。
- 練習の機会: 学校などでも、お子さんが自分の特性を伝える練習の機会を作ってもらえないか相談することも考えられます。例えば、学級の先生に「私はこういうことが少し苦手ですが、〇〇は得意です」と自己紹介する練習をするなど。
- 大人の役割: 周囲の大人が、お子さん自身の言葉で特性を伝えられるようにサポートする姿勢を持つことも大切です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが、ご自身の特性を周囲に分かりやすく伝える力は、社会の中でよりスムーズに、自分らしく生きていくための大切なスキルです。このスキルを育むことは、お子さん自身の自己理解を深め、自己肯定感を高めることにもつながります。
家庭でできることはたくさんあります。お子さんの特性を一緒に言葉にすること、伝える相手や状況を意識する練習、そしてロールプレイングなどを通して具体的に伝える練習を重ねていきましょう。焦らず、お子さんのペースに合わせて、そして何よりもお子さんの「伝えたい」という気持ちを大切にサポートしていくことが重要です。
もし、どのように進めて良いか迷う場合は、専門機関(療育施設、教育相談所、医療機関など)に相談してみることも考えてみてください。外部のサポートも上手に活用しながら、お子さんの「伝える力」を育んでいきましょう。このスキルが、お子さんの未来をより豊かに、そして明るいものにしてくれるはずです。