【経験者向け】発達障がいのあるお子さんが「将来の希望」を持ち、目標に向かって進む力を育む家庭での応用ヒント
はじめに
お子さんの成長を見守る中で、将来への漠然とした不安や、お子さんが自分の力で目標に向かって進むことへの期待を感じる方もいらっしゃるかと思います。特に、発達障がいのあるお子さんの場合、将来について考えることや、具体的な目標を設定してそこに向かうプロセスに難しさを感じることがあります。
基本的な療育の知識をお持ちの保護者の方々は、日々の生活の中で様々なお子さんへのサポートを実践されています。しかし、思春期や成人期が近づくにつれて、より長期的な視点でのサポート、特にお子さんが自分自身の将来に希望を持ち、具体的なステップを踏み出す力を育むことの重要性を感じているのではないでしょうか。
この記事では、発達障がいのあるお子さんが「将来の希望」を見つけ、小さな目標から大きな目標へと向かって着実に進む力を家庭で育むための、実践的な応用ヒントと具体的な声かけについてご紹介します。お子さんの「こうなりたい」という気持ちを大切に、その実現をサポートするための方法を一緒に考えていきましょう。
なぜ「将来の希望」や「目標設定」が難しいことがあるのか
発達障がいのあるお子さんの中には、将来といった抽象的な概念をイメージすることや、目標達成のために必要な手順を理解し、計画・実行すること(実行機能)に苦手さを持つ場合があります。
- 時間概念の理解の難しさ: 将来は遠い未来であり、時間の流れを捉えるのが難しい場合があります。
- 抽象的な思考の難しさ: 「将来なりたい自分」のような抽象的なイメージを持つことが困難な場合があります。
- 実行機能の課題: 目標を設定し、それを達成するための計画を立て、実行し、途中で調整するといった一連のプロセスが苦手な場合があります。
- 失敗への恐れ: 目標達成の過程で失敗する経験を避けたいという気持ちが強く、挑戦そのものを躊躇する場合があります。
これらの特性を理解した上で、お子さんの発達段階や特性に合わせたサポートを行うことが大切です。
家庭で育む「将来の希望」と「目標設定・実行」のための応用ヒント
ここでは、お子さんが将来に希望を持ち、目標に向かって進む力を育むために家庭でできる具体的なサポート方法をいくつかご紹介します。
1. 「好き」や「得意」から将来の可能性を探る
お子さんの強い興味や関心、得意なこと、夢中になっていることから、将来に繋がる可能性を探ってみましょう。
- 具体的なアプローチ:
- お子さんが好きなことについて、一緒に深く掘り下げてみる時間を設ける。
- 関連する場所(博物館、工場見学など)に行ってみる。
- 関連する職業や活動について、絵本や動画、ウェブサイトを使って分かりやすく紹介する。
- お子さんの「好き」を活かせるような簡単な役割や活動を家庭内で与えてみる。
- 声かけ例:
- 「〇〇くん(ちゃん)は△△が本当に好きだね。どういうところが面白いの?」
- 「△△に関わるお仕事ってどんなものがあるのかな?一緒に調べてみようか。」
- 「〇〇の絵を描くのが得意だね。将来、〇〇の絵を描く人になれるかもしれないね。」
2. 小さな目標設定と成功体験の積み重ね
大きな将来の目標は、小さく具体的なステップに分解し、一つずつ達成していく練習が効果的です。成功体験を積み重ねることが、自信と次のステップへの意欲に繋がります。
- 具体的なアプローチ:
- 「今日の目標」「今週の目標」など、短期間で達成可能な小さな目標を一緒にお子さんと設定する。
- 目標達成のために必要な手順を、リストや絵、写真など視覚的に分かりやすい形にする。
- 目標を達成したら、具体的にお子さんの努力や成果を褒める。結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスも評価する。
- 目標達成が難しかった場合は、原因を一緒に考え、次の目標設定に活かす。失敗を責めるのではなく、「どうしたら次はうまくいくかな?」と一緒に考える姿勢を示す。
- 声かけ例:
- 「今日の目標は、宿題を終わらせてから、好きなおもちゃで30分遊ぶことだよ。まずは宿題から始めてみようか。」
- 「目標の〇〇ができたね!頑張ったね!この調子で次のステップにも挑戦してみよう。」
- 「今回は〇〇が難しかったね。△△のところでもう一度やってみようか。次はきっとできるよ。」
3. 将来の選択肢に触れる機会を増やす
お子さんがどのような将来の選択肢があるのかを知る機会を増やすことで、将来に対するイメージを具体的に持つ手助けになります。
- 具体的なアプローチ:
- 様々な職業や生き方をしている人たちの話に触れる機会を作る(テレビ番組、本、地域のイベントなど)。
- お子さんの興味がある分野に関連するボランティアや体験活動があれば参加してみる。
- 地域の特別支援学校や就労移行支援事業所など、将来の進路に関わる機関について、お子さんの理解できる範囲で情報を提供する。
- 家庭内で、家族がどのように仕事や社会と関わっているかについて、お子さんにも分かる言葉で話す。
- 声かけ例:
- 「このテレビ番組の〇〇さん、△△というお仕事をしているんだって。面白そうだね。」
- 「近所で△△の体験ができるみたいだよ。見に行ってみる?」
- 「お父さん(お母さん)は、お仕事でこんなことをしているんだよ。〇〇くん(ちゃん)が好きな△△に似ているところもあるかな?」
4. 不安への共感と具体的な安心材料の提供
将来に対する漠然とした不安や変化への恐れがあるお子さんもいます。そのような気持ちに寄り添い、安心できる材料を提供することが重要です。
- 具体的なアプローチ:
- お子さんの不安な気持ちに共感し、「そう感じているんだね」と受け止める。
- 将来について、抽象的な説明ではなく、お子さんの身近なことから具体的に話す(例:〇〇歳になったら、こんなことができるようになるかもしれないね)。
- 「困ったときはいつでもお父さん(お母さん)がいるよ」「学校の先生や相談できる人もいるよ」といった、サポートがあることを具体的に伝える。
- 安心できるルーティンや環境を大切にし、予測可能な日常を維持する。
- 声かけ例:
- 「将来のこと、少し不安に感じることもあるんだね。大丈夫だよ。」
- 「もし困ったことがあったら、いつでも教えてね。一緒に考えよう。」
- 「〇〇くん(ちゃん)は、これまでも色々なことに挑戦してできるようになったよね。これからもきっと大丈夫だよ。」
5. ビジョンボードやタイムラインなど視覚ツールの活用
将来のイメージや目標達成までのステップを視覚的に表現することで、お子さんの理解を助け、モチベーションを高めることができます。
- 具体的なアプローチ:
- 将来なりたい姿ややりたいことを、絵や写真、言葉を使って一枚のボードにまとめる(ビジョンボード)。
- 目標達成までの道のりを、段階ごとに区切ったタイムラインを作成する。
- これらのツールを、お子さんが日常的に目にするところに飾り、定期的に見返したり、更新したりする。
- 声かけ例:
- 「〇〇くん(ちゃん)の将来の夢を、このボードに書いてみよう(貼ってみよう)!」
- 「目標の△△を達成するために、まずは何をしようか?このタイムラインに書いてみようね。」
学校や専門機関との連携の重要性
お子さんの将来について考える際には、家庭だけでなく、学校や放課後等デイサービス、相談支援事業所などの専門機関との連携が非常に重要になります。
- 具体的な連携のポイント:
- お子さんの興味・関心や得意なこと、将来への希望について、学校の先生や支援員と共有する。
- 学校のキャリア教育や進路指導に関する情報を積極的に得る。
- 個別の教育支援計画や個別支援計画に、将来に関する目標やそれに向けて取り組む内容を盛り込めるか相談する。
- 地域の就労支援機関や相談窓口について情報収集し、必要に応じて相談を検討する。
様々な立場の支援者が情報共有し、連携してサポートすることで、お子さんは多角的な視点から支援を受けることができ、将来への道筋をより具体的に描く手助けになります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが「将来の希望」を持ち、目標に向かって進む力を育むことは、お子さんの自己肯定感を高め、主体的な人生を送る上で非常に重要です。それは、決して大きな成功を目指すことだけではありません。お子さん自身が「こうなりたい」という気持ちを持ち、そのために小さな一歩を踏み出すこと、そしてその過程での成功や失敗から学びを得ることです。
家庭での日々の関わりの中で、お子さんの「好き」や「得意」に目を向け、小さな目標設定の練習を積み重ね、将来の選択肢に触れる機会を増やしていくことが、お子さんの将来への希望を育む土台となります。お子さんのペースに合わせ、焦らず、粘り強く、そして何よりもお子さんの気持ちに寄り添いながらサポートを進めていくことが大切です。
もし、家庭だけでどのように進めていけば良いか迷う場合は、抱え込まずに学校の先生や地域の専門機関に相談してみてください。様々な人のサポートを得ながら、お子さんらしい輝く未来を一緒に描いていきましょう。