【応用編】発達障がいのあるお子さんの「こうでなければ」を和らげ、柔軟な対応力を育む家庭での具体的ヒント
発達障がいのあるお子さんの子育てをされている保護者の皆様へ。
お子さんの成長とともに、特定のやり方や手順への強いこだわり、予期せぬ変化に対する強い抵抗に直面される機会が増えているかもしれません。「こうでなければならない」というお子さんの強い思いは、時に日々の生活の中で困難を生じさせることがあります。
この記事では、そうした発達特性と向き合いながら、お子さんが変化や予期せぬ状況にも少しずつ柔軟に対応できるようになるための、家庭で実践できる具体的なヒントや声かけについて、経験のある保護者の皆様向けに、より一歩踏み込んだ視点からお伝えいたします。お子さんの個性を肯定的に捉えつつ、将来を見据えた対応力を育むヒントとしてご活用いただければ幸いです。
なぜ「柔軟な対応力」が大切なのか
発達障がいのあるお子さんにとって、決まったルーティンや予測できる環境は安心感をもたらし、安定した生活を送る上で非常に重要です。特定のやり方や手順へのこだわりは、こうした安心感を保つための大切な手段の一つであり、決して否定されるべきものではありません。
しかし、社会生活では常に予期せぬ変化や計画通りに進まない状況が発生します。学校での急な予定変更、公共交通機関の遅延、友人との遊びの中でのルール変更など、様々な場面で状況に合わせて対応を切り替える「柔軟な対応力」が求められます。この力が育まれることは、お子さんが将来、よりスムーズに社会に適応し、多様な人間関係を築き、変化の多い世界で自分らしく生きていくために役立ちます。
「こうでなければならない」という強い思いが、かえって本人の視野を狭めたり、困難に直面した際のストレスを増大させたりする可能性もあります。お子さんのこだわりを尊重しつつ、必要な場面で「柔軟な考え方」というもう一つの選択肢を使えるようになることを目指しましょう。
発達特性と「こうでなければ」の関係性の理解
「こうでなければならない」という強いこだわりや、特定のルーティンへの固執は、発達障がい、特に自閉スペクトラム症のお子さんによく見られる特性の一つです。これは、世界を明確で予測可能なものとして捉えたいという強い欲求と関連しています。
- 予測可能性への欲求: 変化や不確実性は多くの人にとって不安を伴いますが、発達障がいのあるお子さんは、感覚処理の違いや情報整理の特性から、特に強く不安を感じやすい傾向があります。そのため、決まったパターンやルーティンに固執することで、安心できる予測可能な世界を作り出そうとします。
- 思考のパターン化: 物事を特定の方法や視点から捉える傾向が強く、一度理解したルールや手順を絶対的なものとして受け止めやすいことがあります。これが、「こうでなければ」という思考につながることがあります。
- 情報の処理: 全体像を捉えるよりも細部に注意が向きやすい特性がある場合、些細な変化にも気づきやすく、それが大きな違和感や不安につながることがあります。
これらの特性を理解することは、お子さんの行動を頭ごなしに否定するのではなく、その背景にあるニーズや認知特性に基づいたサポートを考える第一歩となります。こだわりは、お子さんにとって世界を理解し、自分を保つための重要な手がかりでもあるのです。
家庭で育む柔軟な対応力の具体的なステップ
お子さんの「こうでなければ」という思いに寄り添いながら、少しずつ柔軟性を育むためには、日常生活の中で意図的に「小さな変化」や「選択肢」を経験させることが有効です。ここでは、具体的なステップと声かけの例をご紹介します。
ステップ1:小さな「選択」から始める
お子さん自身が物事を選択する機会を増やすことで、「必ずしも一つではない」という経験を積み重ねます。成功しやすい小さな選択から始め、徐々に選択肢を増やしたり、少し難易度を上げたりします。
- 声かけ例:
- 「今日の朝ごはんはパンにする?それともご飯にする?」
- 「遊びに行くとき、どっちの靴下を履こうか?」
- 「お風呂に入る前に、絵本を読む?パズルをする?」
- ポイント: どちらを選んでも問題ない、お子さんが決めやすい簡単な選択肢を用意します。選択肢は最初は二つから始め、慣れてきたら三つ以上に増やしても良いでしょう。お子さんが選択したことを肯定的に受け止め、「自分で選んだね」と伝えます。
ステップ2:予期せぬ変化を「許容する練習」をする
やむを得ない予定変更や、いつもと違う状況が発生した際に、事前に心の準備をさせ、代替案を提示することで、変化に対する抵抗を和らげる練習をします。
- 声かけ例:
- 「今日〇〇に行く予定だったけど、雨が降ってきたから△△にしよう。△△も楽しいかもしれないよ。」(理由と代替案を明確に伝える)
- 「いつもの道が工事でお休みなんだって。少し遠回りになるけど、違う道を通ってみようか。どんな景色が見えるかな?」(変化の理由と、別の視点やポジティブな側面を伝える)
- 「今日のおやつは、いつもの〇〇じゃなくて△△だよ。新しい味、試してみようか?」(事前に伝え、小さな冒険のように誘う)
- ポイント: 変化の理由を分かりやすく説明し、見通しを示すことが重要です。また、代替案は魅力的であるか、お子さんが納得しやすいものであると受け入れやすくなります。変化を受け入れられた時には、「急な変更だったけど、よく受け入れたね、えらいね」と具体的に褒めます。
ステップ3:「複数の解決策」があることを示す
問題に直面した際に、「一つのやり方」だけでなく、複数の解決策が存在することをお子さんと一緒に考えます。これは、固定的な思考パターンから抜け出す手助けになります。
- 声かけ例:
- 「あれ?おもちゃが見つからないね。どうしようか?(しばらく待つ)一つは一緒に探してみる方法があるね。他には、他の遊びを先にしてみる?それとも、お片付けをしながら探してみる?」
- 「ブロックが足りないね。どうしたらいいかな?足りない分は他のもので代用できるかな?それとも、形を変えて作ってみる?お家にあるもので作れないかな?」
- ポイント: 親が一方的に解決策を提示するのではなく、「どうしたらいいかな?」と問いかけ、お子さんの考えを引き出すことから始めます。いくつかの選択肢を提示する際は、言葉だけでなく、絵や具体物を使うと分かりやすい場合があります。
ステップ4:「妥協点を見つける練習」をする
特に兄弟や友人との関わりの中で、自分の意見だけを通すのではなく、相手の意見も尊重し、お互いが少しずつ譲り合う「妥協」の経験を積ませます。
- 声かけ例:
- 「〇〇君はブロックで遊びたいんだね。△△ちゃんは絵本を読みたいんだね。二人ともやりたいことが違うね。どうしたら一緒に遊べるかな?(話し合いを促す)じゃあ、最初にブロックで遊んで、次に絵本を読むのはどう?それとも、ブロックと絵本、両方を使った遊びを考えてみる?」
- 「あなたは赤を選びたいんだね、でも、他の人は青を選んでいるよ。みんなの意見を少しずつ取り入れるとしたら、どうするのがいいかな?」(多数決や順番など、妥協の方法を提案)
- ポイント: 妥協は難しいスキルですが、スモールステップで練習します。最初は親が仲介に入り、「お互いが少しずつ〇〇したね」と、妥協によって問題が解決した経験を肯定的に振り返ります。
ステップ5:「もしも」の状況を考える練習
シミュレーションを通して、予測不能な状況に対する心の準備と対応の練習を行います。「もしも~だったら、どうなるだろう?」「そんな時、どうしたらいいかな?」といった問いかけで思考を刺激します。
- 声かけ例:
- 「もしも、明日公園に行こうとしたら、お休みだったらどうしよう?」(カレンダーを見て、次の公園に行く日を確認するなど、代替の行動を考える)
- 「もしも、学校で給食の献立が急に変わったら、あなたはどんな気持ちになるかな?どうしたら安心できるかな?」(事前に変更がある可能性や、その際の対処法(先生に聞く、好きなものから食べるなど)を一緒に考える)
- ポイント: ポジティブな「もしも」から始めると取り組みやすいでしょう(例:「もしも宝くじが当たったら、何に使いたい?」。慣れてきたら、ネガティブな状況も扱います。この練習は、不安を煽るのではなく、あくまで「心の準備」と「対応策を考える力」を育むことが目的です。
実践上の注意点と応用
- スモールステップ: 一度に多くを求めず、お子さんのペースに合わせて、できることから少しずつ取り組みましょう。
- 成功体験: 小さな成功体験を積み重ねることが、お子さんの自信につながり、「違うやり方もできた」「変化も大丈夫だった」という肯定的な感覚を育みます。
- 肯定的な声かけ: できないことや失敗したことではなく、できたこと、頑張った過程に注目し、具体的に褒めましょう。「違うやり方に挑戦できたね」「急な変更でも落ち着いていられたね」など、具体的な行動を認めます。
- こだわりとのバランス: 柔軟性を育むことは、お子さんのこだわりを全て否定することではありません。安心できるルーティンやこだわりは維持しつつ、必要に応じて他の選択肢も取れるようになることを目指します。状況に応じて「こだわりを発揮しても良い場面」と「少し柔軟に対応してみようとする場面」の区別を学ぶ手助けも有効です。
- モデルとなる: 保護者自身が、予期せぬ出来事に対して落ち着いて柔軟に対応する姿勢をお子さんに見せることも、学びの機会となります。
- 専門家との連携: 家庭での取り組みと並行して、学校や放課後等デイサービス、専門機関と連携し、お子さんの柔軟性を育む目標や具体的な支援方法について情報を共有することも重要です。必要に応じて、専門家からのアドバイスを受けることも検討しましょう。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが持つ「こうでなければならない」という強い思いは、お子さんなりの理由やニーズに基づいたものです。その背景を理解し、個性を尊重しながら、社会生活で求められる「柔軟な対応力」を家庭で育んでいくことは可能です。
小さな選択の機会を増やしたり、予期せぬ変化への心の準備を促したり、複数の解決策を一緒に考えたりといった日々の具体的な関わりを通して、お子さんは少しずつ、状況に応じて考え方や行動を調整する力を身につけていきます。
焦らず、お子さんのペースに寄り添いながら、できたことを認め、励まし続けることが大切です。家庭での穏やかな関わりが、お子さんの未来の可能性を広げる一助となることを願っております。一人で抱え込まず、必要に応じて専門家や支援機関の力を借りながら、お子さんらしい成長をサポートしていきましょう。