【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの『予期せぬ出来事』や計画変更への対応力を育む家庭での応用ヒント
はじめに
発達障がいのあるお子さんにとって、「いつもと違うこと」や「計画通りにいかないこと」は、大きな不安や混乱を引き起こすことがあります。毎日のルーティンが崩れたり、予期せぬハプニングが起こったりした際に、戸惑いや抵抗を示すことは少なくありません。
基本的な日課や見通しを立てることに慣れてきたものの、予測不能な状況や急な予定変更にどう対応すれば良いのか、悩んでいらっしゃる経験のある保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この「予期せぬ出来事や計画変更に対応する力」は、お子さんが成長し、社会の中で様々な状況に適応していく上で非常に大切なスキルです。この記事では、発達障がいのあるお子さんが、家庭で安心感を持ちながら、変化や予期せぬ出来事に対して柔軟に対応できるようになるための具体的な応用ヒントと声かけのコツをご紹介します。お子さんの「困った行動」として捉えるのではなく、変化への抵抗という特性を理解し、その上でどうサポートしていくかという視点でお伝えします。
なぜ予期せぬ出来事や計画変更が難しいのか
発達障がいのあるお子さんが、予期せぬ出来事や計画変更に難しさを感じやすい背景には、いくつかの特性が関係しています。
- 見通しを立てることの困難さ: 将来の見通しが立ちにくい、先のことが予測できないことへの不安が強い場合があります。計画変更は、まさにその「先のことが予測できない」状況を生み出します。
- 強いこだわりやルーティンへの安心感: 決まったやり方や日課に安心感を覚えるお子さんは多く、それが崩れることに強い抵抗を示すことがあります。ルーティンは予測可能な世界を作り出すため、それが壊れることは安心感の喪失につながりやすいのです。
- 感覚過敏や環境の変化への過敏さ: 急な予定変更に伴い、いつもと違う場所へ行ったり、いつもと違う人と会ったりすることで、感覚的な刺激が増えたり、馴染みのない環境への不安が高まったりすることがあります。
- 情報の処理に時間がかかる: 新しい情報や状況の変化を理解し、それに応じて自分の行動を調整するのに時間がかかる場合があります。急な変更は、この処理能力の限界を超えてしまい、混乱を引き起こすことがあります。
これらの特性から、予期せぬ出来事や計画変更は、お子さんにとって予測不能で、コントロールできない、そして不安を感じる状況となりやすいのです。この難しさを理解した上で、お子さんが安心しながら柔軟性を身につけられるようなサポートを考えていくことが重要です。
家庭で育む「柔軟な対応力」の具体的なステップ
柔軟な対応力を育むためには、安心できる環境を土台とし、スモールステップで練習を積み重ねていくことが効果的です。以下に具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:安心できる土台作りと事前の準備
お子さんが「大丈夫だ」と感じられる安心感を普段から育むことが最も重要です。
- 安定した日課: 普段の生活で可能な限り安定した日課を保つことは、見通しを持ち、安心感を得るために大切です。その上で、小さな変化への対応力を育んでいきます。
- 安心アイテムの活用: 不安が高まりやすいお子さんには、お気に入りのぬいぐるみ、ブランケット、音楽など、安心できるアイテムを携帯することも有効です。
- 事前の見通し付けの練習: 変更がない場合でも、一日の流れや予定を視覚的に示したり、事前に伝えたりすることを習慣にします。これにより、「予定」や「変更」という概念への抵抗感を和らげます。
ステップ2:小さな「変更」への慣れから始める
いきなり大きな計画変更に対応させるのは難しいので、日常の中の小さな変化から練習を始めます。
- 例えば、「今日の公園に行く道順を少し変えてみよう」「夕食を食べるテーブルを変えてみよう」「いつもより5分だけ早く(遅く)始めよう」など、影響の少ない、お子さんが受け入れやすい小さな変更を意図的に作ります。
- 成功体験を積み重ねることで、「変更があっても大丈夫かもしれない」という感覚を育みます。
ステップ3:変更を伝える声かけの工夫
変更を伝える際は、お子さんが理解しやすく、安心できるような声かけを心がけます。
- 具体的に伝える: 何が、どのように、いつ、どのくらい変わるのかを具体的に伝えます。「今日の公園は行けないよ」だけでなく、「今日は公園は中止になったけれど、代わりに明日行こうね」「今日はお家で別の遊びをしようね」のように、代替案や今後の見通しも一緒に伝えます。
- 理由を明確に、かつ簡潔に: なぜ変更が必要なのか、お子さんが理解できる言葉で理由を伝えます。「雨が降ってきたから」「お店が閉まっていたから」「〇〇をするために、この時間に変える必要があるんだ」など、納得しやすい理由を伝えます。
- 肯定的な言葉で: 「〇〇ができなくなった」という否定的な表現だけでなく、「〇〇はできないけれど、△△ができるよ」「また今度□□しようね」のように、できることや今後の楽しみにも触れます。
- 選択肢を提示する: 可能であれば、変更後の代替案についてお子さんに選択肢を提示し、自分で決める機会を与えることも有効です。「公園は行けないけど、家で絵本を読むのと、ブロックで遊ぶのと、どっちがいい?」
ステップ4:変更時の感情への寄り添いと対処法の練習
変更によってお子さんが混乱したり、感情が不安定になったりした際には、まずはその感情を受け止め、共感的に寄り添います。
- 感情のラベリング: お子さんの感情を言葉にして伝えます。「楽しみにしていたのに、行けなくなって残念だったね」「急に変わってびっくりしたね、嫌な気持ちになったね」のように、感情を認める声かけをします。
- クールダウンの方法を一緒に練習: 感情が落ち着かない時には、深呼吸、好きな音楽を聴く、安心できる場所へ移動するなど、お子さんに合ったクールダウンの方法を普段から一緒に練習しておき、変更時に促します。
- 「困った行動」の背景にある感情を理解する: 大声を出したり、物を投げたりといった行動の背景には、「不安」「怒り」「戸惑い」といった感情があります。行動だけを叱るのではなく、感情に寄り添い、「嫌だった気持ち、ママ(パパ)に教えてくれる?」のように、言葉で表現することを促します。
ステップ5:ロールプレイングやシミュレーション
実際の場面を想定したロールプレイングやシミュレーションは、具体的な対応方法を学ぶ良い機会になります。
- 「もしお出かけの途中で電車が止まっちゃったら?」「もしお店で欲しいものが売り切れていたら?」など、起こりうる様々な「予期せぬ出来事」のシナリオを想定し、お子さんと一緒に「こんな時はどうする?」と話し合ったり、役割を演じてみたりします。
- 具体的な対応方法(例:「駅員さんに聞いてみる」「別のお店に行ってみる」「代わりにこれを選ぶ」)を練習することで、予測不能な状況への対処スキルを身につけることができます。
ステップ6:成功体験の積み重ねと肯定的なフィードバック
小さな変更でも、お子さんが柔軟に対応できた時には、具体的に褒めて、成功体験を積み重ねることが非常に大切です。
- 「急な変更があったのに、落ち着いてお話を聞いてくれてありがとう」「予定が変わったけど、すぐに気持ちを切り替えてくれてすごいね」「〇〇が売り切れだったけど、代わりにこれを選んでくれて助かったよ」のように、具体的にどのような行動が良かったのかを伝えます。
- 成功体験は、お子さんの自信につながり、「次も頑張ってみよう」という意欲を引き出します。
具体的な家庭でのヒント・声かけ例
- 日常生活での練習機会:
- 今日の公園は遠回りをしてみよう。
- お風呂の順番を今日はお兄ちゃんと逆にしてみよう。
- おやつの時間を今日の気分で少し早めてみようか。
- 変更を伝える声かけ例:
- 「大変!公園に行く予定だったけど、雨が降ってきちゃったね。だから、公園には行けないんだ。残念だけど、お家で何か楽しいことを見つけようね。」
- 「明日の朝ごはん、いつもはパンだけど、今日は特別にご飯にしてみようか。気分転換になるかな?」
- 「今日の放課後デイは〇〇(いつもと違う活動)に変更になったよ。なぜかと言うとね、△△だからなんだ。新しいことに挑戦するのも楽しいかもしれないよ。」
- 気持ちを受け止める声かけ例:
- 「予定が変わっちゃって、嫌な気持ちになったね。楽しみにしていたもんね。その気持ち、わかるよ。」
- 「急なことでびっくりしたね。少し休憩しようか。」
- 頑張りを認める声かけ例:
- 「急な変更だったのに、最後までお話を聞いてくれて、本当にありがとう。落ち着いていて偉かったね。」
- 「気持ちの切り替え、頑張ったね!△△(変更後の行動)も楽しめてよかったね。」
長期的な視点と他の課題との関連
柔軟な対応力は、お子さんが成長し、学校生活、思春期、そして将来社会に出る上で不可欠なスキルです。予期せぬ出来事への対応経験は、ストレス耐性を高め、困難な状況でも落ち着いて考え、行動する力を育みます。また、計画通りにいかないことへの対処を学ぶことは、完璧主義からくる生きづらさを軽減し、よりしなやかな思考を促します。このスキルは、問題解決能力や、他者との関わりの中で意見の相違や予期せぬ反応に対応する力にも繋がります。
専門機関や学校との連携
家庭での取り組みと並行して、学校や放課後等デイサービスなどの関係機関と連携することも重要です。お子さんの「予期せぬ出来事」に対する反応や、家庭での取り組み状況を共有することで、学校などでも一貫したサポートを受けることができます。また、専門機関からは、お子さんの特性に合わせたより具体的なアドバイスを得ることも可能です。一人で抱え込まず、チームでお子さんを支えていく視点を持つことが大切です。
おわりに
予期せぬ出来事や計画変更への対応力を育む道のりは、一朝一夕に進むものではありません。お子さんのペースに合わせて、小さな成功を積み重ねていくことが大切です。困難な状況に直面することもあるかもしれませんが、保護者の方がお子さんの特性を理解し、根気強く、そして何よりも愛情を持ってサポートすることで、お子さんは少しずつ「変化があっても大丈夫」という自信を育んでいくことができます。
このスキルは、お子さんが将来、社会の中で変化に対応し、自分らしく生きていくための大切な力となります。今回ご紹介したヒントが、皆様のご家庭でのおうち療育の一助となれば幸いです。