【経験者向け】発達障がい児の「不公平だ!」と感じた時の対応:公平感の理解と感情調整を育む応用ヒント
発達障がいのあるお子さんは、物事を白黒はっきりつけたがる傾向や、特定のルールや順序への強いこだわりを持つことがあります。そのため、周りの状況が自分の理解と異なったり、予測と違う展開になったりすると、「ずるい」「不公平だ」と感じてしまい、強い不快感や怒りにつながることが少なくありません。
基本的な発達の知識はお持ちの保護者の方も、お子さんが成長するにつれて、社会の複雑なルールや人間関係における「公平性」のグレーゾーンに直面し、対応に難しさを感じることが増えているかもしれません。この記事では、発達障がいのあるお子さんが「不公平だ」と感じる背景を深く理解し、家庭でできる応用的なサポート方法と、感情を適切に調整するヒントについてお伝えします。
「不公平だ!」と感じる背景にある発達特性
お子さんが「不公平だ」と感じる行動の背景には、いくつかの発達特性が考えられます。これらを理解することが、適切なサポートの第一歩となります。
- 白黒思考・融通の利かなさ: 物事を「正しいか間違っているか」「公平か不公平か」のように二極化して捉えやすい傾向があります。「ルールは守るべきもの」「約束は絶対」といった固定観念が強く、状況に応じた柔軟な対応や例外を理解することが難しい場合があります。
- 他者の意図や状況の把握の難しさ: なぜ相手がそのような行動をとったのか、その背景や意図を読み取ることが苦手な場合があります。表面的な事実のみで判断し、「自分にとって不利だ=不公平だ」と結論づけてしまうことがあります。
- ルールの絶対視と一般化の難しさ: 一つの状況で学んだルールやパターンを、他の状況にもそのまま当てはめようとすることがあります。しかし、社会には状況によって適応すべきルールや振る舞いが異なることが多く、その違いを理解するのが難しい場合があります。
- 感情の調整の難しさ: 自分の感じた強い感情(怒り、不満、悲しみなど)を言葉で表現したり、適切にコントロールしたりすることが難しい場合があります。不公平だと感じた時に、その感情に飲み込まれてしまい、衝動的な言動につながることがあります。
家庭で実践できる「不公平感」への応用的なサポート
お子さんが「不公平だ!」と感じて困惑したり、怒ったりしている時に、家庭で実践できる具体的なサポートステップをご紹介します。
ステップ1:お子さんの感情を受け止め、言葉にする
お子さんが「不公平だ」と訴えている時、まずはその感情を否定せず、受け止めることが大切です。
- 声かけ例: 「〜君は、それがずるいと感じたんだね」「不公平だと思って、嫌な気持ちになったんだね」
お子さんの感情を代弁したり、オウム返しで繰り返したりすることで、「自分の気持ちを分かってもらえた」という安心感が生まれます。この段階では、正誤を判断するのではなく、まずはお子さんの内面を理解しようとする姿勢を示します。
ステップ2:状況を整理し、客観的な事実を確認する
お子さんが何に対して「不公平だ」と感じているのか、具体的な状況を整理します。お子さんの主観だけでなく、客観的な事実を一緒に確認します。
- 声かけ例: 「どんな時に、そう感じたの?」「詳しく聞かせてもらえるかな」「〇〇が△△だったから、□□がずるいと思ったのかな?」
状況を絵や図、箇条書きなどで視覚的に整理するのも有効です。事実と感情を区別する練習にもつながります。「〇〇が起こった」という事実と、「それに対して自分が不公平だと感じた」という感情は別であることを理解できるよう促します。
ステップ3:「公平性」の多様性と複雑さを伝える
ここが応用的なサポートの重要なポイントです。「公平=みんなが全く同じ扱いを受けること」ではないことを、お子さんの発達段階に合わせて丁寧に伝えます。
- 具体例を用いて説明する:
- 「年下の子には、少し早く始めてもいいよ、って時もあるよね。まだ小さいから練習中だからだよ」
- 「お兄ちゃんはもう大きいから、自分でできることは自分でやるね。小さい〇〇ちゃんは、まだお手伝いが必要だから、お母さんが手伝ってあげるね。これは、それぞれに必要なことだから違うんだよ」
- 「A君は毎日練習を頑張ったから、鉄棒ができるようになったね。B君はまだ練習中だから、できなくても大丈夫。練習した時間や努力が違うから、結果も違うのは自然なことなんだよ」
- 「学校のテストで、得意な問題と苦手な問題があるように、人それぞれ得意なことや苦手なことがあるよね。だから、みんなに全く同じルールを当てはめるのが、いつも一番良いわけじゃないんだ」
状況、年齢、努力、個別のニーズなどによって、「公平」に見える形が異なることを、具体的なエピソードや例を通して繰り返し伝えます。視覚的なツール(例:異なるサイズの箱を用意して「みんな同じ箱をもらうのが公平?それとも、それぞれに必要な大きさの箱をもらうのが公平?」と問いかける)を使うのも有効です。
ステップ4:ルールや約束の「なぜ」を説明する
なぜそのルールや約束が存在するのか、その背景にある意図や目的を分かりやすく説明します。
- 声かけ例: 「この順番を守るのはね、みんなが安全に滑り台を使うためなんだよ」「この約束はね、お互いが気持ちよく過ごすために決めたんだよ」
ルールが単なる強制ではなく、より良い結果や安全、円滑なコミュニケーションのためにあることを理解できるよう促します。目的を理解することで、ルールの絶対視だけでなく、状況に応じた判断の必要性を学ぶ基礎となります。
ステップ5:建設的な解決策を一緒に考える
不公平だと感じた状況に対して、お子さんと一緒に建設的な解決策や、気持ちを落ち着ける方法を考えます。
- 声かけ例: 「この状況をどうしたら、〇〇君にとって少しでも良い方向に変えられるかな?」「次に同じようなことがあったら、どうしたらいいかな?」「もし気持ちがモヤモヤしたら、どんなことをしたら落ち着けるかな?」
感情的に訴えるだけでなく、問題解決に向けて思考を巡らせる練習になります。すぐに解決策が見つからなくても、「一緒に考える」というプロセスそのものが大切です。
ステップ6:感情を適切に表現する方法を練習する
不公平感からくる怒りや不満を、衝動的にぶつけるのではなく、言葉で適切に伝える方法を練習します。
- ロールプレイング: 「『今のは不公平だと感じます』って、落ち着いて言ってみようか」「『〇〇してくれると嬉しいな』ってお願いしてみようか」
- アサーション: 自分の気持ちや要求を、相手を傷つけずに伝える練習をします。「Iメッセージ」(「私は〜と感じる」「私は〜してほしい」)を使う練習などが有効です。
長期的な視点と応用
「不公平感」への対応は、一度や二度で完了するものではありません。お子さんが成長し、より複雑な社会に関わっていく中で、継続的にサポートしていく必要があります。
- 社会には多様な考え方があることを伝える: 自分にとって「公平」に見えなくても、他の人には違う見え方があること、様々な立場や状況があることを伝えます。
- 「グレーゾーン」の理解: 物事が常に白黒はっきりしているわけではなく、状況によって柔軟な判断が必要な「グレーゾーン」があることを、具体的な例を通して伝えます。(例:電車の優先席、災害時の対応など)
- 自分の権利と他者の権利: 自分が公平な扱いを受ける権利がある一方で、他の人も同様に公平な扱いを受ける権利があること、そして時にはお互いの権利を調整する必要があることを伝えます。
- 学校や社会での出来事への応用: 家庭での練習を、学校や放課後デイ、地域での出来事にどう応用できるか、一緒に振り返りながら考えます。
保護者自身の視点と連携の重要性
お子さんの「不公平だ!」という訴えや、それに関連する行動に、保護者自身が疲弊したり、イライラしたりすることもあるかもしれません。保護者も人間ですから、そうした感情を持つのは自然なことです。
一人で抱え込まず、信頼できる友人や家族に話を聞いてもらったり、必要に応じて専門機関(児童心理司、臨床心理士、応用行動分析士など)に相談したりすることも検討してください。学校の先生や放課後デイの支援員とも連携し、お子さんの「不公平感」への対応について情報共有し、一貫した対応を心がけることも、お子さんの混乱を減らす上で非常に有効です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが感じる「不公平感」は、特性からくる物事の捉え方や、社会の複雑さへの対応の難しさから生じることが多いものです。これを単なるわがままや問題行動として捉えるのではなく、お子さんが世界のルールや他者との関わり方を学ぼうとしているプロセスの一部として理解し、根気強くサポートすることが大切です。
お子さんの感情を受け止め、状況を整理し、「公平性」の多様性を具体的な例で伝えること、ルールの背景を説明すること、そして建設的な解決策や感情表現の方法を一緒に練習することを通じて、お子さんは徐々に社会の複雑さを理解し、柔軟に対応する力を身につけていくでしょう。
お子さんのペースに合わせて、焦らず、一つずつ丁寧に取り組んでいくことが、お子さんが将来、より円滑に社会生活を送るための大切な土台となります。