【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの「自分のトリセツ」作りをサポート:自己理解を深める家庭での応用ヒント
発達障がいのあるお子さんの「自分のトリセツ」作りをサポート:自己理解を深める家庭での応用ヒント
お子さんの成長とともに、新たな課題に直面されている保護者の方も多いことと思います。特に、発達障がいのあるお子さんのサポートにおいては、基本的な対応に加え、お子さん自身が自分の特性を理解し、社会の中で生きやすくなるための応用的なアプローチが求められる場面が増えてきます。
この記事では、お子さんが自身の特性を肯定的に理解し、困難に遭遇した際に適切に対処したり、他者に助けを求めたりできるようになるための一歩として、「自分のトリセツ(取扱説明書)」を一緒に作るプロセスと、家庭で実践できる具体的なサポート方法や声かけのコツをご紹介します。これは、将来的な自立や社会参加に向けて、非常に大切なスキルを育むことにつながります。
なぜ「自分のトリセツ」が必要なのでしょうか?(応用的な視点)
「自分のトリセツ」とは、お子さん自身が「自分がどんなときに、どう感じ、どう考え、どう行動しやすいか」「どんなことに困りやすく、どんなサポートがあると助かるか」などを言語化したり、視覚化したりしてまとめたものです。
お子さんが自己理解を深め、この「自分のトリセツ」を持つことは、以下のような応用的なメリットをもたらします。
- 自分自身のコントロール力の向上: 自分の「苦手」や「困りごと」のパターンを理解することで、問題が大きくなる前に自分で気づき、対処したり、回避したりする力が育まれます。
- 困難な状況への対処: 予期せぬ出来事やストレスの高い状況に直面した際、自分の特性を踏まえて、「どうすれば乗り越えられるか」「過去にうまくいった経験は何か」を思い出す手助けになります。
- 他者への適切なサイン発信: 困ったときに、周りの大人や友人に「自分は今こんな状況で困っています」「こんなサポートがあると助かります」と具体的に伝えることができるようになります。これは、孤立を防ぎ、良好な対人関係を築く上で重要です。
- 将来の選択肢を広げる: 自分の得意・不得意を理解することは、学習方法、進路選択、将来の働き方などを考える上で、現実的かつ自分に合った選択をするための重要な基盤となります。
- 自己肯定感の向上: 自分の「苦手」だけではなく、「得意なこと」「好きなこと」「自分にとって心地よいこと」も「トリセツ」に含めることで、自分自身の全体像を肯定的に捉えることができるようになります。
家庭でできる「自分のトリセツ」作りの具体的なステップ
お子さんの年齢や発達段階、特性に合わせて、無理のない範囲で進めることが大切です。一度にすべてを完成させようとするのではなく、お子さんと一緒に少しずつ、楽しみながら取り組んでみてください。
ステップ1:お子さんと一緒に「得意なこと」「好きなこと」を見つけ、肯定的な側面からアプローチする
まず、「困りごと」に焦点を当てる前に、お子さんの「強み」や「興味」から話を進めましょう。これは、お子さんが「トリセツ」作りに対して前向きな気持ちを持つために非常に重要です。
- 具体的な声かけ例:
- 「〇〇くん(ちゃん)が夢中になることって何かな?」
- 「これやってるとき、すごく集中してるよね!楽しい?」
- 「△△が上手になったね!どうやったらそんなに上手になるの?」
- 「どんなことを考えているときが一番ワクワクする?」
- サポートのポイント:
- お子さんの日常の様子をよく観察し、どんな時に笑顔になるか、どんな活動に没頭するか、どんなスキルが伸びているかなどを具体的に言葉にして伝えます。
- お子さんが自分で気づきにくい得意なこと(例:細かい作業が得意、ルールを覚えるのが早い、動物に優しいなど)も具体的に指摘してあげましょう。
- これらの「得意・好き」をリストアップすることから始めてみましょう。文字で書くのが難しければ、絵や写真を使っても構いません。
ステップ2:お子さんと一緒に「苦手なこと」「困ること」を具体的に洗い出す
お子さんが日常生活で困っていること、ストレスを感じやすい状況などを、責めるのではなく、一緒に解決策を探すパートナーとして聞き出します。
- 具体的な声かけ例:
- 「学校(または他の場所)で、ちょっぴり難しいな、困るなと感じることってある?」
- 「大きな音がすると、どんな気持ちになる?」
- 「予定が変わると、どう感じるのかな?」
- 「お友達と一緒に遊んでて、あれ?って思うこと、何かあった?」
- (具体的な場面を思い出す)「前にスーパーに行った時、急に座り込んじゃったよね?あの時、どんな風に感じてたのかな?」
- サポートのポイント:
- 「〜ができない」という表現よりも、「〜な状況で困る」「〜な時に〜と感じる」というように、状況や感情、行動を具体的に切り分けて整理できるよう促します。
- お子さんが言葉にするのが難しければ、選択肢(「ざわざわする?」「ドキドキする?」など)を提示したり、絵カードを使ったりするのも有効です。
- 過去の具体的な出来事を振り返り、「あの時、どうだった?」と優しく問いかけることで、言語化を助けます。ただし、お子さんが嫌がる場合は深追いせず、別の機会にしましょう。
- 否定的な側面にばかり焦点が当たらないよう、「困るけど、こんな風にしたら乗り越えられたよ!」といった成功体験も一緒に振り返ると良いでしょう。
ステップ3:苦手や困りごとに対して「どうすればうまくいくか」「どんなサポートがあると助かるか」を一緒に考える
困りごとが明確になったら、それに対してどのような対処法やサポートがあれば良いかを、お子さんと一緒に考えます。過去の経験や、専門家からのアドバイスなども参考にできます。
- 具体的な声かけ例:
- 「大きな音が苦手な時、どうしたら少し楽になるかな?耳をふさぐ?静かな場所に移動する?」
- 「予定が急に変わるのが苦手なら、どんな風に知らせてもらえると安心できるかな?前もって教えてもらう?絵で見せてもらう?」
- 「もし学校で困ったことがあったら、誰にどんな風に伝えられたらいい?」
- 「一人で集中したいとき、周りの人にどう伝えたら分かってもらえるかな?」
- サポートのポイント:
- お子さん自身がアイデアを出すことを促し、「それは良いアイデアだね!」と肯定的に受け止めます。
- いくつかの選択肢を提示し、お子さんが自分にとって最もやりやすい方法を選べるようにサポートします。
- 「もしこれが難しかったら、次は別の方法を試してみようね」など、柔軟な姿勢を示すことが大切です。
- 自分でできること(例:休憩する、気持ちを切り替える方法)、他者にサポートをお願いすること(例:指示を一つずつもらう、静かな場所を用意してもらう)を分けて整理します。
ステップ4:「トリセツ」としてまとめる
ステップ1〜3で話し合った内容を、お子さんが理解しやすく、必要に応じて他者にも伝えやすい形にまとめます。
- まとめ方のアイデア:
- ノートやファイル: 「私の得意なこと」「私の苦手なことと対処法」「私へのサポートのお願い」などの見出しをつけ、文章や箇条書きで記述。
- カード形式: 得意なことカード、困りごとカード、対処法カードなど、項目ごとに分けて作成。
- イラストや写真: 文字だけでなく、絵や図、写真などを多用する。お子さんが描いた絵や、実際に使っている工夫の写真などを加えると、よりお子さんにとって身近なものになります。
- デジタルツール: パソコンやタブレットで作成し、音声読み上げ機能などを活用する。動画で自己紹介や困りごとを説明するのも一つの方法です。
- フォーマット例(項目):
- 私の名前・好きなこと
- 私の得意なこと・強み
- 私が困りやすい状況(例:音が大きい、人が多い、急な変更、長い指示)
- そのときどう感じる?どうなる?(例:パニックになる、イライラする、フリーズする)
- どうすれば落ち着ける?(例:耳をふさぐ、静かな場所に行く、深呼吸する)
- 周りの人にどんなサポートをお願いしたい?(例:分かりやすく短く話してほしい、休憩時間をください、待ってほしい)
- 私がリラックスできること・好きなこと
- その他伝えたいこと
声かけのコツとサポートのポイント
「自分のトリセツ」作りを通して自己理解を促す際には、以下の点に留意しましょう。
- お子さんのペースと気持ちを最優先にする: 無理強いせず、お子さんが話したくないときは深入りしません。「気が向いたときに、また少し話してみようね」と伝えましょう。
- 「困りごと」は「悪いこと」ではないと伝える: 苦手なことや困る状況があるのは、発達障がいという特性によるものであり、お子さんが悪いわけではないことを繰り返し伝え、安心感を与えます。
- 具体的なエピソードに基づいて話す: 抽象的な質問よりも、「この前、〇〇で〜なことがあったけど、あの時どんな気持ちだった?」のように、具体的な出来事を例に出すと、お子さんも自分の状態を振り返りやすくなります。
- 成長に合わせて「トリセツ」を更新する: お子さんの成長や環境の変化に伴い、困りごとや対処法も変化します。「トリセツ」は一度作ったら終わりではなく、定期的に見直して内容を更新していくプロセスも大切であることを伝えましょう。
- 家族全体で共有する: 作成した「トリセツ」は、可能であれば家族全体で共有し、お子さんへの理解とサポート体制を整えましょう。
- 肯定的な側面を忘れずに: 困りごとだけでなく、得意なことや好きなこと、過去にうまくいった経験に焦点を当てる時間を十分に持ち、お子さんの自己肯定感を育みながら進めます。
作成した「トリセツ」の活用と応用・発展的な視点
作成した「自分のトリセツ」は、家庭内での活用に加え、お子さんが関わる様々な場所での理解促進に役立てることができます。
- 学校や放課後デイでの共有: 担任の先生や支援員の方に、「本人が自分のことを理解するために一緒に作ったものです」として共有するのも有効です。これにより、お子さんの特性に基づいた、より適切なサポートを引き出すことが期待できます。ただし、共有するかどうかはお子さんの意向や状況も踏まえて慎重に判断してください。
- 将来の自立に向けた準備: 思春期を迎え、進路や働き方を考える時期になったら、「トリセツ」の内容が自己分析の基盤となります。自分に合った環境や働き方を見つけるヒントになるでしょう。また、必要に応じて、自分で支援機関や職場などに自分の特性や必要な配慮について伝える練習のツールともなります。
- 専門家との連携: 医師、心理士、相談支援員などと面談する際に、「トリセツ」を見ながら話すことで、お子さんの状況や困りごとを具体的に伝えやすくなります。専門家からのアドバイスを「トリセツ」に書き加えて更新することも可能です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが、自分自身の特性を理解し、それを受け入れ、社会の中でより良く生きていくための力を育むことは、長期的な視点で見ても非常に重要です。「自分のトリセツ」作りは、そのための具体的な一歩となり得ます。
家庭でじっくりお子さんと向き合い、得意なこと、好きなこと、そして困りごとや必要なサポートについて、一緒に言葉にし、形にしていくプロセスは、お子さんにとってかけがえのない自己理解の機会となります。このプロセスを通して、お子さん自身が「自分は自分で良いんだ」「困ったときは助けを求めても良いんだ」と感じられるような関わりを心がけていきましょう。
一人で抱え込まず、必要であれば専門機関や他の保護者からのサポートも積極的に求めてください。家庭での一歩一歩の積み重ねが、お子さんの将来の大きな力となることを願っています。