【経験者向け】発達障がいのあるお子さんが「情報の真偽」を見抜く力を育む:家庭でできる情報リテラシーの具体的なヒント
はじめに:情報の海を航海する力を育むために
現代社会は、インターネットやSNSの普及により、瞬時に膨大な情報にアクセスできるようになりました。これは非常に便利である一方で、誤った情報や悪意のある情報も溢れており、その真偽を見分ける力がますます重要になっています。
特に、発達特性のあるお子さんの中には、提示された情報をそのまま受け入れやすかったり、特定の情報源に強く固執したりする傾向が見られる場合があります。これは、認知特性や思考の柔軟性、社会的な文脈の理解の難しさなど、様々な要因が関係していると考えられます。お子さんが成長し、社会と関わる範囲が広がるにつれて、情報リテラシーは安全に、そして主体的に生きていくために不可欠なスキルとなります。
この記事では、基本的な発達障がいの知識をお持ちの保護者の方に向けて、お子さんが情報の真偽を見抜く力を家庭で育むための、より実践的で応用的なヒントや具体的な声かけの方法をご紹介します。お子さんの「個性の表れ」として特性を理解し、その上で情報との適切な向き合い方をサポートしていきましょう。
発達特性と情報リテラシーの関わりを理解する
情報リテラシーとは、必要な情報を効果的に収集・評価・活用し、適切に発信する能力のことです。なぜ発達特性のあるお子さんがこのスキル習得に難しさを感じやすいことがあるのでしょうか。いくつかの側面から考えてみましょう。
- 額面通りの理解: 言葉や情報を字義通りに受け取ることが多く、比喩や皮肉、裏の意味などを理解しにくい場合があります。これにより、表面的な情報に惑わされやすくなることがあります。
- 思考の柔軟性: 一度覚えたことや信じたことから考え方を切り替えるのが難しい場合があります。これにより、誤った情報や古い情報に固執してしまう可能性があります。
- 文脈理解の難しさ: 情報がどのような意図や背景で発信されているのか、誰が発信しているのかといった文脈を読み取るのが難しい場合があります。これにより、情報源の信頼性を判断しにくくなります。
- 特定の興味・関心: 強い興味を持つ分野については深く調べますが、それ以外の情報には関心が向きにくかったり、興味のある分野の情報でも都合の良いものだけを選択的に受け入れたりすることがあります。
- 社会的な距離感: インターネット上の匿名性のあるコミュニケーションにおいて、対面とは異なる社会的距離感や危険性を感じ取りにくい場合があります。
こうした特性を踏まえ、お子さんの発達段階や理解力に合わせて、具体的なステップで情報リテラシーを育むサポートを行うことが重要です。
家庭で育む情報リテラシー:具体的なステップと声かけ
情報リテラシーは一朝一夕に身につくものではありません。日々の関わりの中で、少しずつ意識的にサポートしていくことが大切です。
ステップ1:情報源について知る「どこから来た情報かな?」
どんな情報も、必ず誰か(または何か)が発信しています。まずは、情報の「出どころ」に目を向ける習慣をつけましょう。
- サポートのヒント:
- テレビのニュース、新聞記事、Webサイトの記事、SNSの投稿、友人からの情報など、情報には様々な形があることを教えます。
- それぞれの情報源には「誰が」発信しているのか、「どのような目的で」発信しているのかを一緒に考えてみます。例えば、「これはテレビ局のニュースだから、たくさんの人が見ていて、正確さが大切にされているかもしれないね」「これは〇〇さんが個人的に書いているブログだから、〇〇さんの考えが強く反映されているかもしれないね」のように、具体的に違いを説明します。
- 信頼性が比較的高いとされる情報源(公共機関の公式サイト、大手報道機関など)と、そうでない可能性のある情報源(匿名掲示板、出所の不明なSNSアカウントなど)があることを、具体的な例を挙げて伝えます。
- 具体的な声かけ例:
- 「このお話(情報)、どこで見た(聞いた)の?」
- 「これは誰が書いた情報だと思う?」
- 「この情報、この会社(またはこの人)はなんでみんなに伝えたいのかな?」
- 「お医者さんが教えてくれることと、インターネットの誰かが書いたこと、どっちがより詳しいかな?」
ステップ2:情報の内容を「立ち止まって」考える習慣「これ、本当かな?」
目にした情報をすぐに信じるのではなく、一度立ち止まって考える習慣を促します。
- サポートのヒント:
- 「へぇ、そうなんだ!」「なるほどね」と受け止めるだけでなく、「でも、本当にそうかな?」「他の意見もあるかな?」と問いかける姿勢を保護者自身が見せることも有効です。
- お子さんが何か情報を得て話してきたときに、「それはすごいね!他にそのことについて書いてあるところはあるかな?」「どうしてそう思ったの?」のように、情報の根拠や別の可能性に目を向けるように促します。
- 特に強い感情(喜び、怒り、不安など)を煽るような情報(「〇〇するだけで痩せる!」「このままだと大変なことになる!」など)に注意が必要であることを、具体的な例を挙げて教えます。感情的な情報は冷静な判断を妨げやすいことを伝えます。
- 具体的な声かけ例:
- 「この情報、本当かな?一緒に調べてみようか。」
- 「〇〇君が前に習ったこと(知っていること)と、同じかな、違うかな?」
- 「この情報を見たら、どんな気持ちになる?その気持ち、もしかしたら情報を書いた人のねらいかもしれないね。」
- 「他にも同じこと言ってる人、いるかな?」
ステップ3:嘘や誤情報の「見抜き方」を学ぶ「怪しいな?と思ったら」
具体的なチェックポイントを教えて、批判的に情報を見る視点を養います。
- サポートのヒント:
- 根拠の確認: 「〜によると」「〜という研究では」など、情報源や根拠が示されているかを確認する大切さを伝えます。根拠が示されていない、あるいは不明瞭な情報は慎重に扱うべきことを教えます。
- 日付の確認: 情報がいつのものかを確認する習慣をつけます。古い情報が現在の状況に当てはまらないことがあることを説明します。
- 複数の情報源との比較: 一つの情報源だけでなく、複数の情報源で同じ情報が伝えられているかを確認することの重要性を教えます。「一つの場所で見ただけでは決めつけないで、他の場所でも同じことが書いてあるか見てみようね」と促します。
- URLやサイトの確認: Webサイトであれば、そのURLやサイト全体の作りが不自然でないか、運営者情報が記載されているかなど、見た目からも判断できるポイントがあることを教えます。ただし、巧妙な偽サイトもあるため、これだけで判断しないことも付け加えます。
- 画像や動画の確認: 最近は画像や動画も加工されている可能性があることを伝えます。「この写真、本物かな?」「どこか違うところはないかな?」と一緒に観察してみるのも良いでしょう。
- 具体的な声かけ例:
- 「この情報、いつの情報かな?去年のことかな、今日のことかな?」
- 「このことについて、別のニュースやホームページにはなんて書いてあるかな?」
- 「ここに『〜によると』って書いてあるけど、その『〜』ってどんなものかな?」
- 「この写真、ちょっと不自然なところはないかな?どこかを変えているかもしれないね。」
ステップ4:情報の「利用目的」を意識する「何のためにこの情報を使う?」
情報を集める、あるいは利用する目的を意識することで、必要な情報を効率的に見つけたり、不必要な情報に惑わされにくくなったりします。
- サポートのヒント:
- 宿題や調べ物をする際に、「何を知りたいの?」「そのためにどんな情報が必要かな?」と目的を明確にする手伝いをします。
- 目的から外れた情報に逸れてしまわないように、「今は〇〇について調べているところだよ」と時々確認します。
- 具体的な声かけ例:
- 「今、何を調べようとしているんだっけ?」
- 「この情報、〇〇君が知りたいことに役立ちそうかな?」
ステップ5:情報発信の「リスク」を理解する「自分で伝えるときに気をつけること」
情報を受け取る側だけでなく、自分が情報を発信する側になる際のリスクについても教える必要があります。
- サポートのヒント:
- SNSなどで個人的な情報(名前、住所、学校名、顔写真など)を載せないことの危険性を具体的に説明します。「もし知らない人に〇〇君の学校が分かったら、どんなことが起きるかもしれない?」のように、お子さんが想像しやすいように話します。
- インターネット上に一度公開した情報は完全に消すのが難しい場合があることを伝えます。
- 他人を傷つけるようなことや、嘘の情報などを発信してはいけないことを教えます。法的な問題や、人間関係のトラブルに発展する可能性があることを伝えます。
- 具体的な声かけ例:
- 「インターネットに自分の名前や写真を載せるときは、誰が見るかわからないから気をつけてね。」
- 「他の人が嫌な気持ちになるようなことは、書かないようにしようね。」
- 「誰かの秘密を知っていても、勝手に他の人に教えちゃダメだよ。」
応用と長期的な視点
情報リテラシーは、お子さんの年齢や発達段階に応じて教える内容や方法を調整する必要があります。
- 思春期以降: より複雑な情報(政治、社会問題、広告、フェイクニュースなど)に触れる機会が増えます。これらの情報の背景にある意図や、多様な意見があることを教え、多角的に物事を捉える視点を育むサポートをします。SNSでの人間関係における情報交換のリスクについても、より具体的に話し合う機会を持つことが重要です。
- 興味・関心を活用: お子さんが強い興味を持っている分野の情報であれば、より意欲的に取り組める可能性があります。好きなテーマに関する情報を集める練習を通じて、情報源の選定や内容の評価方法を学ぶ機会とすることができます。
- 保護者自身の情報リテラシー: 保護者自身が情報リテラシーの高い姿勢を示すことが、お子さんにとって最も身近なモデルとなります。情報の真偽を確かめる様子を見せたり、一緒に考える時間を持ったりすることが効果的です。
- 一人で抱え込まない: もし、お子さんが誤った情報や危険な情報に触れてしまった場合、保護者だけで対応が難しいこともあります。学校の先生やスクールカウンセラー、専門機関などに相談することも検討しましょう。
まとめ
情報リテラシーは、これからの社会を生きていく上で非常に大切な力です。発達障がいのあるお子さんにとって、情報の複雑さや曖昧さから混乱したり、誤った情報を信じ込んでしまったりすることがあるかもしれません。しかし、それは決して「分からない」ということではなく、適切なサポートやスモールステップでの練習によって、理解を深め、スキルを身につけることができるものです。
今回ご紹介した具体的なステップや声かけは、あくまで一例です。お子さんの特性や関心に合わせて、柔軟に対応してください。完璧を目指す必要はありません。日々の生活の中で、親子で一緒に情報を「見る」「考える」「使う」練習を楽しみながら続けていくことが、お子さんが安全に、そして豊かに社会と関わっていくための大きな力となるはずです。根気強く、そして温かく見守り、サポートしていきましょう。