【経験者向け】発達障がい児の強いこだわり・反復行動を「理解」し「活かす」家庭での応用サポート
発達障がいのあるお子さんをお育ての保護者の皆様は、日々の生活の中で様々な工夫をされていることと思います。基本的な対応方法についてはすでにご経験の中で身につけておられるかもしれません。しかし、お子さんの成長とともに、特定の強いこだわりや反復行動が生活の様々な場面に影響を及ぼし、これまでの対応だけでは難しさを感じることもあるかもしれません。
この記事では、発達障がいのあるお子さんに見られる強いこだわりや反復行動について、その背景を深く理解し、単に「やめさせる」のではなく、お子さんの特性として受け止め、時にはその行動を「活かす」方向へと導くための、家庭で実践できる応用的なサポート方法と具体的な声かけのヒントをご紹介します。経験のある保護者の皆様が、お子さんの個性と共に、より豊かな家庭生活を築くための一助となれば幸いです。
こだわり・反復行動の背景を深く理解する
お子さんの強いこだわりや反復行動は、決して意地悪やわがままで行われているものではありません。これらは多くの場合、お子さんにとって重要な意味を持っています。その背景には、以下のような様々な要因が考えられます。
- 安心感の確保: 予測可能なパターンや繰り返される行動は、先の見通しが立ちにくい状況や変化の多い環境において、お子さんにとっての大きな安心材料となります。特定の順番や手順、物の配置へのこだわりなどもこれにあたります。
- 感覚刺激の調整: 特定の音、動き、触感などを求める反復行動(例: くるくる回る、手をひらひらさせる、特定の音を出す)は、感覚過敏や感覚鈍麻を持つお子さんが、自分にとって心地よい刺激を得たり、不快な刺激から逃れたりするための自己調整機能として行われることがあります。
- 興味・関心の表れ: 特定のテーマや物に強い興味を持ち、それに関する情報を集めたり、繰り返し同じ遊びをしたりすることは、深い探求心の表れである場合があります。これは、その子の才能や強みにつながる可能性を秘めています。
- コミュニケーションの手段: 言葉での表現が難しい場合、特定の行動を繰り返すことで、自分の内面(不安、興奮、喜びなど)を表現したり、周囲に何かを伝えようとしたりしていることがあります。
- 思考パターンの特性: 物事をパターンで認識したり、分類したりすることに長けている場合、それが特定のルールや手順へのこだわりとして現れることがあります。
これらの行動の背景にあるお子さんの「なぜ?」を理解しようと努めることが、適切なサポートへの第一歩となります。お子さんを観察し、どのような状況で、どのような行動が、どのような頻度で見られるのかを把握することから始めましょう。
応用的なサポート方法:具体的なアプローチ
お子さんのこだわりや反復行動に対して、これまでの経験を踏まえ、さらに一歩進んだ応用的なアプローチを試みるための具体的な方法をご紹介します。
1. 「やめさせる」から「代替行動や柔軟性を育む」視点へ
こだわりや反復行動の全てをなくすことを目指すのではなく、社会生活を送る上で支障が大きい行動については、その行動が満たしているお子さんのニーズを満たしつつ、より適切で柔軟な代替行動へと導くことを考えます。
- 行動の機能を理解する: そのこだわりや反復行動が、お子さんにとってどのような役割を果たしているのか(例: 不安の軽減、感覚調整、楽しさ)を分析します。
- 代替行動を一緒に探す: 元の行動と同じ、あるいは似た機能を持つ、より受け入れられやすい行動を提案します。例えば、手をひらひらさせる代わりに、手を握るボールを使ったり、ジャンプしたりすることを促すなどです。
- 段階的な変化を導入する: 急にルールや手順を変えるのではなく、少しずつ変化を取り入れます。「いつもの〇〇の前に、まずは△△をしてみよう」「今日は、この部分だけちょっと違うやり方でやってみようか」のように、小さなステップで変化に慣れていきます。
- 「例外ルール」を作る: 全ての状況で厳格なルールを適用するのではなく、「この場所では違うやり方でも大丈夫だよ」「今日の特別な日だけは、この順番じゃなくてもいいよ」など、特定の状況や時間だけ例外を設ける練習をします。
2. 環境調整と予測可能性の提供
こだわりや反復行動は、環境の変化や予測のつかない出来事によって誘発されることがあります。環境を調整し、先の見通しを提供することで、お子さんの不安を軽減し、こだわり行動を減らすことにつなげます。
- 視覚的な手がかりを活用する: スケジュール表や手順リスト、タイマーなどを使い、次に何が起こるのか、あとどれくらいで終わるのかを視覚的に示します。これにより、お子さんは安心して行動できるようになります。
- 変化を事前に予告する: 予定の変更やいつもと違うことが起こる場合は、できるだけ早めに、分かりやすく伝えます。「明日はいつもの公園じゃなくて、違う公園に行ってみるよ」「いつもの順番とちょっと違うけど、まずはこれをしようね」のように具体的に伝えます。
- 安心できる「場」や「時間」を作る: 普段の生活の中に、お子さんが完全にリラックスでき、好きなこだわり行動を安心してできる時間や場所を意図的に設けます。これにより、他の場面でのこだわり行動を減らすことにつながることがあります。
3. ポジティブな強化とこだわりを「活かす」視点
望ましい代替行動や、こだわりを建設的な方向に活かせた場合に、肯定的な声かけや報酬で強化することが重要です。また、お子さんの強い興味や集中力を、学びや得意なことにつなげる視点も大切です。
- 具体的な承認の言葉を使う: 「〇〇の代わりに△△ができたね、すごいね!」「順番が変わっても、きちんと最後までできてえらいね」のように、具体的にどのような行動が良かったのかを伝えます。
- こだわりをテーマにした活動を取り入れる: お子さんの強い興味を学習活動や遊びに組み込みます。例えば、特定のキャラクターが好きならそのキャラクターに関する本を読んだり、計算問題に応用したり、特定の場所が好きなら地図で調べたり、関連施設を訪れたりするなどです。
- 得意なことを伸ばす機会を提供する: こだわりから発展した特定のスキル(例: 電車の種類に詳しい、恐竜の名前をたくさん知っている、特定の絵柄を描き続けるのが得意)を認め、さらに伸ばすための機会(関連書籍、博物館訪問、教室など)を提供します。これはお子さんの自己肯定感を高めることにもつながります。
4. コミュニケーションの工夫
こだわり行動の背景にある感情やお子さんの意図を理解しようと努め、適切な言葉かけや表現方法のサポートを行います。
- 感情や欲求を言葉で代弁する: お子さんがこだわり行動をしている時に、その背景にあるであろう感情や欲求を推測し、「〜なのかな?」「〜したい気持ちがあるんだね」のように言葉にして伝えます。これにより、お子さん自身の内面への気づきを促し、言葉での表現へとつなげます。
- 「なぜ」を分かりやすく説明する: ルール変更や代替行動を求める際に、「なぜそうするのか」の理由を、お子さんが理解できる言葉や視覚的な手段を使って丁寧に説明します。「この場所では、みんなが気持ちよく過ごせるように、こういうルールになっているんだよ」のように、理由を具体的に伝えます。
具体的な声かけのフレーズ例
状況に応じた、丁寧で肯定的な声かけは、お子さんの安心感を高め、サポートを受け入れやすくします。
- こだわり行動の背景に寄り添う:
- 「〇〇(行動)してるね。もしかして、ちょっとドキドキしてるかな?」
- 「この音(動き、感触)が好きなんだね。心地よいかな?」
- 「このやり方(順番)でやると、落ち着くんだね。」
- 代替行動や柔軟性を促す:
- 「いつものやり方も良いね。もし良かったら、今度はこっちのやり方も試してみない?」
- 「今日は特別に、順番を少し変えてやってみようか。」(事前に予告した上で)
- 「〇〇(行動)の代わりに、△△(代替行動)をしてみようか。気持ちいいかもしれないよ。」
- こだわりを強みとして活かす:
- 「〇〇(好きなこと)のこと、本当に詳しいね!△△についても調べてみたら、もっと面白いことがわかるかもしれないよ。」
- 「繰り返し練習したから、△△がすごく上手になったね!すごい集中力だよ。」
- 変化やルールの受け入れを促す:
- 「ここでは、みんなが safe (安全)に過ごすために、このルールがあるんだよ。」(理由を簡潔に)
- 「予定が変わってびっくりしたね。でも、この後は〜だから大丈夫だよ。」(先の見通しを示す)
- できたことを具体的に褒める:
- 「自分で気持ちを切り替えて、違う活動に移れたね。偉かったよ。」
- 「いつもと違う順番だったのに、最後までやり遂げたね。素晴らしいね。」
学校・専門機関との連携の重要性
家庭での取り組みだけでなく、学校や放課後等デイサービスなどの関係機関と情報共有し、一貫したサポートを行うことは非常に重要です。
- 情報共有の工夫: お子さんのこだわりや反復行動について、家庭での様子、その背景に考えられること、家庭で試しているサポート方法などを具体的に伝えます。連絡帳や面談の際に、箇条書きで伝えるなどの工夫をすると、スムーズに情報共有が進みます。
- 連携した目標設定: 関係機関と連携し、お子さんにとって現実的で達成可能な目標(例:特定のこだわり行動を特定の場面では控える、代替行動を試す、変化への適応力を少しずつ高める)を共有し、家庭と施設で共通したアプローチを試みます。
- 専門家への相談: 特定のこだわり行動が非常に強く、家庭での対応が難しい場合や、お子さん自身が困難を感じている場合は、療育センター、児童相談所、専門の医療機関などに相談することを検討してください。専門家のアドバイスやプログラムがお子さんの成長をサポートする助けとなります。一人で抱え込まず、外部のサポートを積極的に活用しましょう。
長期的な視点と保護者自身のケア
お子さんのこだわりや反復行動は、成長とともに変化していくものです。すぐに劇的な変化が見られなくても、焦らず、お子さんのペースに合わせて根気強く関わることが大切です。
また、終わりなき育児の中で、こだわりへの対応は保護者にとって大きな負担となることもあります。保護者自身が心身ともに健康でいることが、お子さんへの適切なサポートを続ける上で不可欠です。息抜きをする時間を作ったり、信頼できる家族や友人、同じような経験を持つ他の保護者と交流したり、必要であればカウンセリングなどの専門的なサポートを受けることも考えてみてください。完璧を目指す必要はありません。
まとめ
発達障がいのあるお子さんに見られる強いこだわりや反復行動は、お子さんなりの世界との向き合い方であり、自己を守り、整え、探求するための重要な特性であることが多くあります。これらの行動を単なる「困った行動」として否定するのではなく、その背景にあるお子さんのニーズや意図を深く理解しようと努め、肯定的な視点で関わることが、お子さんの健やかな成長を促します。
この記事でご紹介した応用的なサポート方法や声かけのヒントは、これまでのご経験を踏まえ、さらに一歩踏み込んだ対応を模索されている保護者の皆様に向けてのものです。お子さんの個性を尊重し、「理解」し、「活かす」という視点を持つことで、お子さんの可能性を広げ、より豊かな親子関係を築いていくことにつながるでしょう。焦らず、お子さんのペースに寄り添いながら、一つずつできることから試してみてください。そして、困った時は専門家や他の保護者との連携を忘れずに、様々なサポートを活用してください。