【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの災害への備えと対応力を育む家庭での応用ヒント
発達障がいのあるお子さんの災害への備えと対応力を育む家庭での応用ヒント
予測不可能な災害は、誰にとっても大きな不安を伴いますが、発達障がいのあるお子さんにとっては、普段と違う状況や予期せぬ変化への対応が特に難しい場合があります。大きな音、見慣れない光景、避難所での集団生活、コミュニケーションの混乱など、様々な要因がストレスとなり、パニックや混乱を引き起こす可能性も考えられます。
基本的な防災知識は持っているものの、「うちの子の場合、具体的にどう備えれば良いのだろう」「もしパニックになったら、どう声をかけ、どう行動を促せば良いのだろう」と、より実践的で応用的な対応策をお探しのご家庭も多いのではないでしょうか。
この記事では、発達障がいのあるお子さんの特性を踏まえ、災害発生時の「困りごと」を想定し、家庭でできる応用的な備えや、災害発生時の具体的な対応、そして日頃から育んでおきたい力についてご紹介します。お子さんの安全と安心を守るために、ご家庭でできる準備を進めていきましょう。
災害時に想定される発達特性による「困りごと」と家庭での備え
発達障がいのあるお子さんが災害時に直面しやすいと考えられる「困りごと」には、以下のようなものがあります。これらの困りごとを理解し、事前の備えに活かすことが重要です。
- 予期せぬ変化への対応困難: 突然の揺れや警報、避難指示など、計画外の出来事に対応することが難しい。
- 備え: 災害発生時の「もしも」の状況を具体的に伝え、取るべき行動の「ルーチン」や「ステップ」を視覚的に提示しておきます。「地震が来たら、まず頭を守る」といった短いフレーズと絵カードを準備するなどです。
- 感覚過敏・鈍麻: 大きな音(警報、悲鳴)、強い光、混乱した状況、不慣れな場所の匂いや温度、非常食の質感などが強い苦痛となる、あるいは危険を察知しにくい。
- 備え: 防災リュックに、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホン、使い慣れたブランケットやタオル、匂いの少ないマスク、口当たりの良い非常食などを入れておきます。危険への鈍麻がある場合は、ヘルメットや防災頭巾の着用練習、避難経路の安全確認をより丁寧に行います。
- コミュニケーションの困難: 混乱の中で指示を理解し実行すること、自分の状態や要求を他者に伝えることが難しい。
- 備え: お子さんの名前、年齢、アレルギーや服薬情報、パニック時の対応方法、連絡先、伝達が難しい場合に伝えたいことなどをまとめた「ヘルプカード」や「情報シート」を作成し、常に携帯できるようにしておきます。指示は短く、分かりやすい言葉で伝える練習を日頃から行います。
- 特定のこだわり・ルーチン: いつもと違う行動を求められることへの強い抵抗や、特定の物がないと落ち着かない。
- 備え: 可能であれば、避難場所や避難経路を事前に見学しておきます。防災リュックに、お子さんが安心できるお気に入りの物(小さいおもちゃ、本など、かさばらないもの)を少量入れておくことも有効です。ただし、本当に必要な物資の邪魔にならない範囲で検討してください。
- 危険認知・判断の困難: 状況判断が難しく、二次的な危険(倒壊の恐れがある場所、火災、津波など)を理解しにくい。
- 備え: 危険な場所や状況を具体的に教え、視覚的なサイン(「ちかづかない」「あぶない」などのマーク)を用いて理解を促します。ハザードマップを見て、「ここは水につかるかもしれない場所」「ここが安全な高い場所」などを一緒に確認する練習も有効です。
災害発生時の具体的な対応と声かけのコツ
いざ災害が発生してしまった場合、お子さんの混乱を最小限にし、安全を確保するための具体的な対応と声かけのヒントです。
- まずは親(支援者)自身が落ち着く: 保護者が動揺していると、お子さんはさらに不安になります。深呼吸するなど、まずはご自身が落ち着くように努めます。
- 安全な場所への移動を最優先: 「頭を守って!」「ここに移動しよう!」など、短く明確な指示で、安全な場所(机の下、物が落ちてこない場所など)へ誘導します。
- 声かけのコツ:
- シンプルに: 長い説明は避けて、「ゆれてるよ」「じしん」「にげよう」など、端的な言葉を選びます。
- 具体的に: 「大丈夫だよ」よりも、「頭を隠してね」「この机の下だよ」のように、具体的な行動を示します。
- 肯定的に: 「走っちゃダメ」ではなく、「ゆっくり歩こうね」のように伝えます。
- 視覚情報を活用: 言葉での理解が難しい場合は、ジェスチャーで促したり、事前に作った絵カードを見せたりします。
- 物理的な誘導も: パニックで動けない場合は、優しく手を引く、肩に触れるなど、物理的な誘導が必要な場合もあります。
- パニックへの対応:
- 無理に押さえつけたり、大声を出したりせず、まずは安全な場所に移動させます。
- 可能であれば、落ち着けるスペースを確保します(狭い場所、壁際など)。
- 感覚過敏が原因の場合は、耳をふさぐのを手伝ったり、体を優しく押さえるなど、感覚刺激を調整するサポートを行います。
- 落ち着くまで寄り添い、「怖いね」「大丈夫だよ、ママ(パパ)がいるよ」など、共感と安心のメッセージを静かに伝えます。
- 落ち着いてきたら、飲み物を促すなど、次の行動にゆっくりと繋げます。
- 避難行動のステップ確認: 揺れが収まったら、「次は何をするんだっけ?」「避難場所はどこ?」など、事前に練習したステップを声かけや絵カードで確認しながら行動を促します。
- 避難所での過ごし方:
- できれば静かで落ち着ける場所にスペースを確保します。
- 持参したイヤーマフやブランケットなどを活用し、感覚刺激を和らげます。
- 他の人との交流が難しい場合は、無理強いせず、見守ります。
- 定期的に声をかけ、体調や困りごとがないか確認します。ヘルプカードを提示し、周囲の理解と協力を得ることも検討します。
日頃から育んでおきたい「応用力」と「安心感」
災害発生時の対応力は、特別な訓練だけでなく、日頃からの様々な経験を通じて培われます。
- 小さな変化への対応練習: 普段の生活で、予定が変更になったり、いつもと違うルートを通ったりする機会に、「今日は〇〇の道が工事だから、こっちの道を行こうね」など、理由を伝えて経験させます。
- 感覚への慣れ: 安全な範囲で、様々な音や場所、感触を経験する機会を少しずつ設けます。
- コミュニケーション練習: 自分の気持ちや要求を簡単な言葉やジェスチャーで伝える練習をします。「お腹すいた」「疲れた」など、自分の状態を伝えることから始めます。
- 災害について学ぶ: 絵本や防災アニメなど、お子さんの興味や理解度に合わせて、地震や火事などの災害について学びます。「どうして揺れるの?」「どうすれば身を守れるの?」などを一緒に考えます。
- 防災訓練への参加と練習: 自治体や学校の防災訓練に可能であれば参加します。家庭でも、「地震だよ!」の声かけで机の下に隠れる練習や、避難場所までの道を歩く練習を、ゲーム感覚で繰り返し行います。
- 安心感の醸成: 「〇〇すれば大丈夫」「困った時は△△に助けを求めようね」など、具体的な対処法を繰り返し伝え、安心感を育てます。保護者自身が冷静に対応する姿を見せることも、お子さんの安心に繋がります。
学校や支援機関、地域との連携
災害時の対応は、ご家庭だけでなく、学校や放課後等デイサービス、地域の支援者との連携も非常に重要です。
- お子さんの特性、パニック時の対応方法、必要な配慮(感覚過敏への対応、コミュニケーション支援の方法など)を、事前に学校や支援機関に共有しておきましょう。
- 災害時の引き渡し方法や連絡手段について、事前に確認し、家族内でも共有しておきます。
- 可能であれば、地域の自主防災組織に、お子さんの特性や避難時のサポート依頼について相談しておくことも選択肢の一つです。ヘルプカードの活用についても、関係者間で認識を合わせておくと安心です。
- 専門機関(療育施設、相談支援事業所など)に、災害時の対応について相談し、個別のアドバイスやリソース(災害時用の絵カードなど)を得ることも有効です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんにとって、災害への備えと対応は、お子さんの特性を深く理解した上で、具体的かつ応用的なアプローチで進めることが重要です。事前の準備や練習を通して、お子さんが「どうすれば安全でいられるか」を理解し、少しでも安心感を持って過ごせるようにサポートしていきましょう。
ご紹介したヒントが、日々の備えの一助となれば幸いです。一人で抱え込まず、学校や支援機関、地域とも連携しながら、お子さんの安全と安心を守るためのネットワークを築いていくことも大切です。