【経験者向け】発達特性の自己開示とプライバシー保護:お子さんが安心・安全に社会と関わるための家庭での応用ヒント
お子さんの成長とともに、家庭の外で関わる人や場面が増えていきます。学校、習い事、友人関係、将来は進学や就労など、社会との接点が広がる中で、「自分の発達特性について、どこまで、誰に話せば良いのだろう?」と悩む機会が出てくるかもしれません。
自分の特性を理解し、適切に自己開示することは、周囲からのサポートを得たり、より良い人間関係を築いたりするために役立つことがあります。一方で、全てをオープンにすることが常に良い結果をもたらすとは限りません。伝える必要のない情報を伝えてしまったり、意図しない形で情報が広まってしまったりすることで、トラブルに巻き込まれたり、傷ついたりするリスクも存在します。
だからこそ、お子さんが安全に、自分らしく社会と関わっていくためには、「自己開示」と「プライバシー保護」のバランスを学び、状況に応じて適切に判断する力を育むことが非常に重要になります。これは、発達障がいのお子さんを持つ保護者の皆様が、基本的な対応に加え、お子さんの将来を見据えた応用的なサポートとして取り組めるテーマです。
この記事では、家庭でできる自己開示とプライバシー保護に関するサポートについて、具体的なヒントや声かけの例を交えながらご紹介します。
なぜ、自己開示とプライバシー保護のバランスが大切なのか
自己開示は、自分の内面や考え、特性などを他者に伝えることです。発達特性について自己開示することで、例えば以下のようなメリットが考えられます。
- 必要なサポートや配慮が得やすくなる:学校の先生や職場の上司に特性を伝えることで、学習方法や業務の進め方について、特性に合った配慮をお願いできる場合があります。
- 人間関係がスムーズになる:友人に自分の特性を理解してもらうことで、誤解が減り、より深い信頼関係を築けることがあります。
- 自分自身を受け入れる:自分の特性をオープンにすることで、隠す必要がなくなり、自己肯定感につながることもあります。
しかし、無計画な自己開示にはリスクも伴います。
- 誤解や偏見を受ける可能性がある:特性に対する知識が不足している人や、偏見を持つ人に伝えてしまうと、不当な扱いを受けたり、傷つく言葉を投げかけられたりすることがあります。
- 情報が意図せず広まる可能性がある:伝えた相手が悪意なく他の人に話してしまい、情報が広まってしまうことがあります。
- 自分の弱みを知られてしまうリスク:悪意のある人が、開示された情報を利用して不利益を与えようとする可能性もゼロではありません。
したがって、お子さんが安全に社会と関わるためには、「誰に」「何を」「どのように」「いつ」伝えるかを判断する力と、「伝えない」という選択や、自分の大切な情報を守る「プライバシー保護」のスキルを身につけることが不可欠なのです。
家庭で育む「誰に」「どこまで」伝えるかの判断力
お子さんが自己開示について考える第一歩は、自分の特性を理解することです。そして、特性を「悪いもの」として隠すのではなく、「自分らしさの一部」として肯定的に捉えられるようにサポートします。
その上で、以下のようなステップで判断力を育んでいきます。
1. 伝える目的を考える * 「なぜ、この人に自分のことを話そうと思ったの?」 * 「話すことで、どんなふうになりたいかな?」 * 「困っていることを助けてほしいから? それとも、もっと仲良くなりたいから?」
このように、伝える目的を明確にする問いかけをすることで、無目的に話してしまうのではなく、目的意識を持って情報を選ぶ練習になります。
2. 信頼できる相手かどうかを見極める練習 * 「この人は、あなたが困っている時に助けてくれたことはあるかな?」 * 「あなたの話を、最後までちゃんと聞いてくれる人かな?」 * 「他の人の悪口を言ったり、人の秘密をペラペラ話したりするタイプの人かな?」 * 「話した内容を、他の人に言わないでね、とお願いできる相手かな?」
身近な人との関わりの中で、相手の言動を観察し、信頼できるかどうかを判断する視点を養います。すぐに完璧な判断はできなくても、繰り返し一緒に考えることで、少しずつ見極める力が育ちます。
3. 伝える内容の選び方 * 自分の特性全てを詳しく話す必要はありません。伝える目的を達成するために必要な情報だけを選ぶ練習をします。 * 例えば、「大きな音が苦手で、急に鳴るとびっくりしてしまうんです。もし可能なら、事前に教えてもらえると助かります」のように、具体的な困りごとや、してほしいサポートを伝えることから始めると良いでしょう。 * 抽象的な説明よりも、「図や絵で説明してもらえると分かりやすいです」「一度にたくさんのことを言われると混乱するので、一つずつお願いできますか?」のように、具体的な対処法や希望を伝える方が、相手も対応しやすくなります。
4. 伝え方の練習 * 伝えたい内容が決まったら、家で一緒に話す練習(ロールプレイング)をしてみましょう。 * 相手に分かりやすいように、落ち着いたトーンで話す練習をしたり、「〜が苦手なのですが、〜してもらうことはできますか?」のように、丁寧な言葉遣いや依頼の仕方を練習したりします。 * 話す練習をすることで、お子さん自身も自信を持って臨めるようになります。
5. 「伝えない」という選択があることを教える * 必ずしも全ての人に特性を伝える必要はないことを明確に伝えます。 * 「話したくないな」「この人には言わないでおこう」と感じたら、無理に話さなくて良いこと、「プライベートなことだから」と伝えても良いことを教えます。
プライバシーを守るための具体的な家庭でのヒント
プライバシーとは、自分が「他の人に知られたくない、自分だけの大切な情報」です。氏名、住所、電話番号、家族構成、病歴、障害に関する情報、日々の行動などが含まれます。
お子さんがプライバシーの概念を理解し、自分の情報を守るための具体的な方法を家庭で伝えていくことが大切です。
- 「プライバシー」を分かりやすく説明する: 年齢に応じて、「他の人に知られたくない秘密のことだよ」「あなたが誰と、どこで、何をしているか、というような個人的な情報のことだよ」など、具体的な例を交えながら説明します。
- 個人情報の取り扱いについて: 氏名、住所、電話番号、学校名などの個人情報を、家族以外の誰かに教える場合は、必ずお家の人に相談するようにルールを決めます。見知らぬ人に聞かれても教えてはいけないことを伝えます。
- オンライン上でのプライバシー保護:
- SNSやオンラインゲームなどで、本名や学校名、自宅の場所などが特定できる情報を載せないように教えます。
- 自分の写真や動画をアップロードする際の注意点(写っている人の許可を取る、背景に注意するなど)を伝えます。
- 知らない人からの友達申請やメッセージには安易に応じないこと、不審なやり取りはすぐに保護者に相談することを約束します。
- 位置情報サービスの設定など、技術的なプライバシー設定も一緒に確認します。
- 家庭内のルール作り:
- 「家族以外の人に、家であったことや家族の秘密を勝手に話さない」というルールを設けることも、他者のプライバシーを尊重することにつながります。
- 家族であっても、個人的な日記や持ち物を勝手に見たり触ったりしないことなど、互いのプライバシーを尊重する姿勢を示します。
- 「嫌だ」「教えたくない」と言って良いことを伝える: 知られたくない情報を聞かれたり、無理に話させられそうになったりした場合に、「それはプライベートなので」「話したくないです」と断って良いことを教えます。その場で対応が難しければ、「お家の人に相談してからにします」と伝える選択肢があることも示します。
困難な状況への対応:トラブルや誤解が起きた場合のサポート
自己開示やプライバシーに関して、お子さんが困難な状況に直面することもあるかもしれません。情報が意図せず広まってしまったり、伝えたことで誤解や偏見を受けたりした場合などです。
このような時、保護者が冷静に対応し、お子さんに寄り添うことが非常に重要です。
- お子さんの話に耳を傾ける: まずはお子さんの気持ちを受け止め、「辛かったね」「嫌な思いをしたね」と共感を示します。何が起こったのか、具体的によく話を聞きます。
- 原因と対策を一緒に考える: なぜそのようなことが起こったのか、次回同じような状況にならないためにはどうすれば良いか、を一緒に対策を考えます。お子さんを責めるのではなく、「次に活かそうね」という前向きな姿勢で取り組みます。
- 関係者への対応: 状況に応じて、学校の先生、習い事の指導者、トラブルになった相手の保護者などと連携を取り、事実確認や今後の対応について話し合います。
- 専門機関との連携: 解決が難しい場合や、お子さんが深く傷ついている場合は、スクールカウンセラー、療育機関の専門家、弁護士など、適切な専門機関に相談することを検討します。一人で抱え込まず、外部のサポートを積極的に利用してください。
長期的な視点:思春期から成人期に向けた準備
自己開示とプライバシー保護のスキルは、思春期を経て成人し、社会に出ていく上でますます重要になります。
- 進路選択や就労における自己開示: 高校、大学、専門学校への進学や、一般企業、障害者雇用での就労など、将来の目標に向けて、自分の特性をどのように伝え、どのようなサポートが必要かを考える機会が増えます。早い段階から、就労支援機関やハローワークなどの情報に触れ、具体的なイメージを持つサポートを行います。
- 自分でサポートを求めるスキル: 困った時に誰に、どのように助けを求めれば良いか、権利や利用できる制度にはどのようなものがあるかなど、主体的に情報を集め、行動する力を育みます。
- 自分を守るための知識: 契約、お金の管理、悪質商法など、社会生活で自分を守るための基本的な知識も、年齢に応じて伝えていくことが大切です。
自己開示とプライバシー保護は、一度教えれば終わり、というものではありません。お子さんの成長段階や、関わる社会の広がりに応じて、繰り返し話し合い、一緒に考えていくプロセスです。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが、自分の特性を理解し、自己開示とプライバシー保護のバランスを取りながら社会と関わることは、安心・安全に、そして自分らしく生きていく上で非常に重要なスキルです。
家庭での日々の関わりの中で、お子さんの特性を肯定的に捉え直し、誰に、何を、どのように伝えるかの判断力を育み、そして自分の大切な情報を守るための具体的な方法を伝えていくことが、お子さんの将来の自立につながります。
時には困難な状況に直面することもあるかもしれませんが、お子さんの気持ちに寄り添い、一緒に乗り越えていく経験を通して、お子さんはより強く、賢く成長していくでしょう。必要に応じて専門機関や支援者の力を借りながら、焦らず、お子さんのペースで、この大切なスキルを育んでいきましょう。