【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの「曖昧な指示」や「言葉の裏の意図」を理解する力を育む家庭での応用ヒント
はじめに
お子さんの成長に伴い、家庭や学校、地域での指示やコミュニケーションは、徐々に複雑になり、曖昧さを含むことが増えてきます。「適当にやっておいて」「後で気が向いたら」「いい感じに片付けてね」といった指示や、言葉通りの意味ではない皮肉や比喩、冗談など、言葉の裏にある「意図」を読み取る場面も多くなります。
発達障がいのあるお子さんの特性として、具体的で明確な指示を好む傾向があるため、このような曖昧な表現や言葉の裏の意図を捉えることに難しさを感じることがあります。これは、指示されたことの意味が分からず行動に移せない、周囲とのコミュニケーションで誤解が生じやすいといった困りごとにつながることがあります。
基本的な指示理解はできるようになったけれど、一歩進んだ、より複雑な指示や相手の意図を汲み取る力が求められるようになったと感じている保護者の方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、発達障がいのあるお子さんが曖昧な指示や言葉の裏の意図を理解し、適切に対応する力を家庭で育むための具体的なステップと応用ヒントをご紹介します。これはお子さんの「問題」ではなく、特性による「つまずきやすいポイント」であり、適切なサポートでスキルとして身につけていくことができるものです。
曖昧な指示・意図理解の何が難しいのか:特性の理解
発達障がいのあるお子さんが曖昧な指示や言葉の裏の意図を理解することに難しさを感じる背景には、いくつかの認知特性が関連していると考えられます。
例えば、
- 言葉を文字通りに受け取る傾向: 発言された言葉そのものの意味に焦点を当て、文脈や非言語的な情報(表情、声のトーン、状況など)から総合的に判断することが難しい場合があります。
- 見通しを立てることの難しさ: 曖昧な指示では、具体的に何をすれば良いのか、いつまでにすれば良いのかといった見通しが立てにくく、不安や混乱につながることがあります。
- 複数の情報を統合することの難しさ: 言葉、声のトーン、表情、状況など、様々な情報から相手の意図を読み取るのは、複数の情報を同時に処理し統合する複雑な作業です。これが苦手な場合があります。
これらの特性から、「ちょっと手伝って」と言われても「何を?」「どこを?」「どのくらい?」が分からず立ち止まってしまったり、「もう、いいよ」という言葉を文字通り受け取ってしまい、実は相手が怒っていることに気づけなかったりすることが起こります。
これは、お子さんの「やる気がない」「空気が読めない」ということではなく、認知の特性からくるつまずきであることを理解することが、サポートの第一歩となります。
家庭で育む「曖昧さ」対応のステップ
家庭は、お子さんが安心して様々なスキルを試せる安全な場所です。曖昧な指示や意図理解のスキルも、家庭での日々の関わりの中でスモールステップで育んでいくことができます。
ステップ1:曖昧さへの「気づき」を促す
まずは、自分が指示や相手の言葉の意味を十分に理解できていないかもしれない、ということに気づくことが重要です。
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問いかけの例:
- 「今の『いい感じ』って、どんなことをしてほしいっていう意味かな?」
- 「『後でね』って言われたけど、それは今日かな?明日かな?それとも、お母さんが声をかけるまでかな?」
- 「今の先生の顔、何か言いたそうだったけど、どう思った?」
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「分からない」と言って良い安心感を与える: 分からないことを恥ずかしいこと、悪いことだと感じさせないことが大切です。「分からない時は、『分からないから教えて』って聞いて大丈夫だよ」と繰り返し伝え、実際に聞きに来たら具体的に説明する機会を持ちましょう。
ステップ2:具体化・確認のスキルを教える
曖昧な指示や理解できない言葉に出会ったときに、それを具体的にしたり、相手に確認したりする方法を教えます。
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具体的な確認フレーズの練習:
- 「〜ということで合っていますか?」
- 「〜というのは、具体的にはどういうことですか?」
- 「いつまでにすれば良いですか?」
- 「いくつ/どのくらい必要ですか?」
これらのフレーズを、日常の簡単な指示(例: 「お茶、持ってきて」→「お茶というのは、冷蔵庫にある麦茶のことですか?」)の中で練習してみましょう。ロールプレイングも有効です。
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視覚的なサポートの活用: 言葉だけでは曖昧になりやすい指示は、メモ、イラスト、写真、チェックリストなどを活用して具体化します。「お部屋を片付けて」なら、「おもちゃを箱に入れる」「本を棚に戻す」「洗濯物をかごに入れる」のようにリスト化すると分かりやすくなります。
ステップ3:文脈や非言語情報を読み取る練習
言葉そのものだけでなく、それが話された状況、相手の表情、声のトーンなどから意図を読み取る練習をします。
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日常会話での「実況中継」:
- 「今、お父さんが『ありがとう』って言ったけど、笑顔だったから、本当に嬉しかったんだね。」
- 「あの時、〇〇くんは『大丈夫』って言ってたけど、顔が曇っていたから、もしかしたら大丈夫じゃなかったのかもしれないね。」
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映像教材(テレビ、アニメなど)の活用: 登場人物のセリフ、表情、状況を一緒に見て、「この人、この時どんな気持ちだと思う?」「なんでこの人はこんな言い方をしたのかな?」などと話し合います。感情と表情、声のトーンの関連性を具体的に教えます。
ステップ4:意図の「推測」と「確認」のバランス
社会生活では、いちいち全てを確認することは難しい場面もあります。ある程度は文脈から意図を推測し、どうしても分からない場合や重要な指示の場合に確認するという応用的なスキルを育みます。
- 推測のプロセスを言葉にする: 「この状況で『手伝って』と言われたら、まずは何を手伝ってほしいのか、あたりをつけてみよう。例えば、今お母さんはご飯を作っているから、食器を並べることかもしれない、とかね。」と、推測するプロセスを一緒に考えます。
- 「これくらいなら、自分で考えてやってみよう」「これは大事なことだから、確認しよう」の判断基準を一緒に考える: 状況の重要度や、失敗した場合の影響の大きさなどを考慮に入れて、確認の要不要を判断する練習をします。
声かけのコツとNG例
曖昧な指示や意図理解に難しさがあるお子さんへの声かけは、お子さんの特性を理解し、安心感を最優先に考えることが大切です。
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具体的な声かけを心がける:
- NG例: 「ちゃんとやって」「早く準備して」
- OK例: 「リビングにある宿題を机の上に置いてください」「家を出る5分前になったら、玄関で靴を履いて待っていてください」
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「分からない時は聞いてね」を具体的な行動につなげる: ただ「聞いてね」と言うだけでなく、「分からなかったら、お母さんの肩をトントンして教えてって言ってね」のように、具体的な行動を指定すると、お子さんは聞きやすくなります。
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否定的な言葉や感情的な口調を避ける:
- NG例: 「なんでこんな簡単なことが分からないの!」「前に教えたでしょ!」
- OK例: 「分からなくて困っているんだね、一緒に考えてみようか」「もう一度説明するね、どこからが分からなくなったかな?」
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できた経験を具体的に褒める: 曖昧な指示や意図を汲み取れた時には、「今の、お母さんが言いたかったことをよく理解してくれたね!」「分からない時に『分からない』って聞けたのが素晴らしかったよ!」と、具体的な行動を褒めることで、成功体験を積み重ねさせます。
応用的な視点と長期的なサポート
学校や放課後デイサービスとの連携
家庭で取り組んでいる曖昧さ対応の練習や、お子さんが特に苦手とする指示のタイプ、理解しやすい伝え方などを学校や放課後デイサービスの先生に共有しましょう。情報共有シートを活用したり、面談の機会に具体的に伝えたりすることで、場所を越えた一貫したサポートにつながります。「曖昧な指示が苦手なので、可能な範囲で具体的に伝えていただけますでしょうか」「分からない時に聞き返せるような雰囲気作りをしていただけると助かります」といった依頼の仕方が考えられます。
失敗から学びをサポート
曖昧な指示を間違って理解してしまい、失敗してしまうこともあるでしょう。その際に感情的に叱るのではなく、「こういう時は、もしかしたら〇〇という意味だったのかもしれないね。次は確認してみようか」「どうすれば良かったか、一緒に考えてみよう」と、建設的な声かけをすることで、失敗を恐れずに次に活かす経験に変えることができます。
自己肯定感を守る
曖昧さが苦手なのは、決して本人の努力不足ではありません。分からない時に「自分はダメだ」と感じてしまうお子さんもいます。「分からなくて当たり前の時もあるよ」「分からないことを聞くのは、できるようになるための大切なステップだよ」と伝え、分からない自分を否定しないようにサポートすることが、自己肯定感を育む上で非常に重要です。
スモールステップでの練習
曖昧さ対応のスキルは、一度に全てを完璧に習得できるものではありません。簡単な指示から始め、徐々に複雑な指示、非言語情報を含むコミュニケーションへとレベルアップしていくように、スモールステップで練習を続けましょう。
まとめ
曖昧な指示や言葉の裏の意図を理解する力は、社会生活を送る上で非常に重要なスキルです。発達障がいのあるお子さんにとっては、その特性ゆえに習得に時間がかかる場合がありますが、家庭での継続的な、そして具体的なサポートによって着実に育んでいくことができます。
今回ご紹介した「気づき」「具体化・確認」「非言語情報の理解」「推測と確認のバランス」といったステップは、お子さんが安心して社会と関わっていくための大切な土台となります。焦らず、お子さんのペースに合わせて、できたことを認めながら、温かい声かけでサポートを続けていきましょう。
もし家庭でのサポートに行き詰まりを感じたり、より専門的なアドバイスが必要だと感じたりした場合は、一人で抱え込まず、専門機関や他の保護者の方々と情報を共有し、サポートを求めることも大切な選択肢です。