【経験者向け】発達障がい児の複雑な感情を理解し、適切に表現・調整できるようになる家庭での応用的なヒント
発達障がいのあるお子さんの感情理解・表現・調整を深めるために
お子さんの成長とともに、感情も複雑になってきます。嬉しい、楽しいといった単純な感情だけでなく、不安や焦り、がっかり、といったネガティブな感情や、複数の感情が同時に存在する状態(例:楽しみだけど少し不安)を経験することも増えるでしょう。
発達障がいのあるお子さんの中には、こうした複雑な感情に気づくこと、それを言葉にして人に伝えること、そしてその感情を自分でコントロールすることに難しさを感じやすい特性を持つ方がいらっしゃいます。基本的な感情の理解はできても、より細やかなニュアンスや、状況に応じた適切な表現・対処が課題となることも少なくありません。
この記事では、基本的な感情のサポートに加えて、発達障がいのあるお子さんが複雑な感情を理解し、適切に表現・調整できるようになるための、家庭でできる応用的なサポート方法と声かけのヒントをご紹介します。お子さんの内面の成長を支え、より豊かな感情生活を送るための一助となれば幸いです。
感情の特性を理解する
発達障がいのあるお子さんが感情の扱いに難しさを感じやすい背景には、いくつかの特性が考えられます。
- 感情に気づくことの難しさ: 自分の体や心の変化として感情を感じ取ることに鈍感であったり、逆に過敏すぎたりすることがあります。特に、不安やストレスといった内面的な感覚に気づきにくいことがあります。
- 感情を言葉にすることの難しさ(アレキシサイミア傾向): 感情の名前を知っていても、「今自分がどんな気持ちなのか」を正確に捉え、適切な言葉で表現することが難しい場合があります。
- 感情の強さや切り替えの難しさ: 一度ある感情に囚われると、その感情が非常に強くなり、他の感情へ切り替えることが難しくなることがあります。
- 曖昧な感情や複合感情の理解困難: 「ちょっとだけ不安」「嬉しいけど恥ずかしい」といった、はっきりしない感情や、複数の感情が混ざり合った状態を理解するのが難しいことがあります。
これらは「問題行動」として捉えられがちですが、お子さんの「個性」や「特性」として理解し、その特性に合ったサポート方法を考えていくことが大切です。
複雑な感情理解を深めるための具体的なサポート
感情を理解するためには、まず感情の種類を知り、それがどのような状況や体の感覚と結びついているのかを学ぶことが重要です。
1. 感情語彙と表現の幅を広げる
- 具体的な感情語彙を教える: 「嬉しい」「悲しい」「怒っている」だけでなく、「わくわく」「がっかり」「イライラ」「もやもや」「ほっとした」といった、より具体的で複雑な感情を表す言葉を教えます。
- 声かけ例: 「プレゼントをもらって、わくわくする気持ちだね」「楽しみにしていたことがなくなって、がっかりしたんだね」
- 感情カードや絵本を活用する: 様々な表情や状況が描かれたカード、感情をテーマにした絵本、イラストなどを用いて、視覚的に感情と状況を結びつけて学びます。
- 表情や声のトーンに注目する: 人の表情や声のトーンが、どのような感情を表しているのかを一緒に観察します。テレビのドラマやアニメなども良い教材になります。
- 声かけ例: 「この人は、どんな顔してる?どんな気持ちかな?」「声が震えているのは、どういう気持ちの時かな?」
2. 自分の内面の変化に気づく練習
- 体の感覚と感情を結びつける: 「ドキドキする」「お腹が痛くなる」「肩に力が入る」といった体の感覚が、不安や緊張といった感情と結びついていることを教えます。
- 声かけ例: 「なんだかお腹が痛くなってきた?もしかして、少し心配な気持ちかな?」「手がぎゅっとなっているね。イライラする感じかな?」
- 「感情の温度計」や「感情メーター」: 自分の今の気持ちを簡単なスケール(例:0から10まで)や色で表す練習をします。感情の「強さ」を視覚化するのに役立ちます。
- 一日を振り返る: 寝る前などに「今日、どんな気持ちになったかな?」「どんな時に嬉しかった?」など、簡単な質問で感情を振り返る時間を持つことも有効です。
3. 感情のグラデーションと複合感情の理解
- 感情の強さを視覚化: 同じ「怒り」でも、「ちょっとイライラ」から「すごく腹が立つ」まで様々な強さがあることを、「感情の温度計」などを使って教えます。
- 複数の感情を同時に感じることを教える: 「お友達と遊べて楽しいけど、もうすぐ帰る時間で寂しい気持ちもあるね」のように、一つの出来事に対して複数の感情を持つことがあると伝えます。
感情を適切に表現・調整するための応用的なサポート
感情に気づき、理解するだけでなく、それを建設的な方法で表現し、必要に応じて調整するスキルを育むことが、社会生活や心の安定につながります。
1. 感情を言葉で伝える練習
- 「私は〜と感じる」のメッセージ: 自分の感情を主語「私は」で伝える練習をします。「悲しい気持ちになったよ」「困ったなと思ったんだ」のように、状況や他者への評価ではなく、自分の内面に焦点を当てた表現を促します。
- 具体的な声かけのフレーム: 「〇〇な時、あなたはどんな気持ちになった?」「何でそう思ったの?」といった質問で、感情の原因や背景を一緒に考えます。選択肢(「嬉しかった?それともちょっと寂しかった?」)を提示するのも有効です。
- ロールプレイング: 日常で起こりうる様々な状況(例:友達にからかわれた、順番を守ってもらえなかった)を想定し、「こんな時、どんな気持ちになる?」「どうやって伝えたら、相手に気持ちが伝わるかな?」とロールプレイングを行います。
2. 言葉以外の表現方法を教える・認める
言葉での表現が難しい場合や、感情が強い場合は、言葉以外の方法で表現することも大切です。
- 安全な発散方法: 激しい感情を抱えた時に、物を壊すのではなく、クッションを叩く、安全な場所で叫ぶ、思いっきり走るなど、安全な方法で感情を発散できることを教え、実際にできるように環境を整えます。
- 絵や音楽での表現: 絵を描いたり、音楽を聴いたり、楽器を演奏したりすることで、言葉にならない感情を表現する方法もあります。
- クールダウンエリアの活用: 感情が溢れそうになった時に、一人で落ち着ける安全な場所(クールダウンエリア)を家庭内に設けることも有効です。そこに行けば落ち着くためのツール(感覚を落ち着かせるもの、好きな本など)があるようにします。
3. ストレスや強い感情に適切に対処するスキル(感情調整)
感情が高まりすぎたり、ネガティブな感情に囚われたりした時に、自分で気持ちを落ち着ける方法を身につけることは、自立に向けた重要なスキルです。
- クールダウン方法のレパートリーを増やす: 深呼吸、軽いストレッチ、好きな音楽を聴く、温かい飲み物を飲む、好きな感覚刺激に触れる(例:柔らかい布、ひんやりするもの)、散歩に行くなど、お子さんに合うクールダウン方法をいくつか見つけ、リストにして目につく場所に貼っておくのも良いでしょう。
- ストレスサインとクールダウンを結びつける: 「肩が硬くなってきたな」「声が大きくなってきたな」といった自分のストレスサインに気づいたら、「クールダウンリストの中から一つやってみようか」と促します。
- 問題解決スキル: 感情の背景に特定の原因がある場合(例:宿題が終わらないから不安)、その原因に対処する方法を一緒に考えます。感情を感じている自分を受け入れた上で、「どうすればこの状況が少しでも良くなるかな?」と考えを切り替える練習をします。
- ポジティブな感情に注目する: 楽しかったこと、嬉しかったこと、頑張ったことなど、ポジティブな経験にも目を向け、それを振り返る時間を持つことで、感情のバランスを取る練習をします。
家庭での実践のポイントと注意点
- 保護者自身の感情の安定: 保護者の方が落ち着いて対応することで、お子さんも安心して感情に向き合うことができます。保護者自身の感情を安定させることも大切です。
- 完璧を目指さない: 感情の理解や調整は、簡単なスキルではありません。すぐにできるようにならなくても当然です。小さな変化や努力を認め、褒めることから始めましょう。
- 日頃からの練習: 感情が高まっている最中だけでなく、普段から穏やかな時に感情について話したり、練習したりすることが効果的です。
- お子さんのペースを尊重する: 無理強いせず、お子さんのペースに合わせて進めます。
- 一人で抱え込まない: 感情のサポートは、専門的な知識や支援が必要な場合もあります。お子さんの感情の課題が大きいと感じる場合や、家庭での対応が難しい場合は、ためらわずに専門機関(児童精神科、発達支援センター、相談支援事業所など)や学校の先生、スクールカウンセラーに相談してください。他の保護者との情報交換も役立つことがあります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが、自分自身の複雑な感情に気づき、理解し、適切に表現・調整できるようになることは、自己肯定感を育み、他者との関係を築き、将来社会の中で自立していく上で非常に大切な力となります。
ご紹介した方法は、すぐに全てができるようになるものではありませんが、日々の関わりの中で少しずつ取り入れ、お子さんと一緒に感情について学び、練習していくことが重要です。お子さんの「困った行動」の背景にある「困った感情」に寄り添い、その感情と上手く付き合っていくためのツールを一つずつ増やしていくイメージでサポートを続けていただければと思います。
保護者の皆様が、温かく見守り、根気強くサポートを続けることで、お子さんは確実に成長していきます。お子さんのペースを大切にしながら、家庭でできることから実践してみてください。