【応用編】発達障がいのあるお子さんの計画力・実行力をサポート:時間管理と段取りの具体的な家庭療育ヒント
はじめに
発達障がいのあるお子さんを育てる保護者の皆様の中には、基本的な知識をお持ちでありながらも、お子さんの成長に伴う新たな課題に直面し、より具体的な対応策や応用的なヒントをお探しの方もいらっしゃるかと存じます。特に、時間の管理や物事の段取り、計画通りに進めることなど、いわゆる「実行機能」に関連する苦手さは、日常生活や学習において様々な困難として現れることがあります。
この記事では、このような計画力や実行力の課題に対し、家庭で実践できる具体的なサポート方法や声かけのコツをご紹介します。お子さんの「困った行動」としてではなく、脳機能の特性による「個性の表れ」として理解し、その特性を踏まえた上で、お子さんが「自分でできた!」という成功体験を積み重ね、自信を育んでいくためのヒントを提供できれば幸いです。
発達障がいのあるお子さんにおける「実行機能」の課題とは
実行機能とは、目標を設定し、それを達成するために計画を立て、実行し、調整する一連の認知プロセスのことです。これには、ワーキングメモリ(一時的に情報を保持・操作する能力)、計画力、組織化能力、優先順位付け、時間管理、開始・終了する力、衝動制御などが含まれます。
発達障がい、特にADHD特性のあるお子さんにおいては、これらの実行機能の発達に遅れや偏りが見られることがあります。そのため、「宿題をいつから始めようか」「必要なものを揃えよう」「どのような手順でやろうか」といった計画を立てることや、立てた計画通りに実行すること、時間の感覚を掴むことなどが難しくなりやすいのです。
これは決して「やる気がない」わけではなく、脳機能の特性によるものです。このことを理解することが、適切なサポートの第一歩となります。
家庭で実践できる計画力・実行力サポートの具体的なヒント
お子さんの実行機能の苦手さを補い、少しずつ能力を育むためには、環境調整と具体的な声かけが効果的です。ここでは、いくつかの具体的な方法をご紹介します。
1. タスクを「見える化」し、ステップを細分化する
抽象的な指示は、実行機能に苦手さがあるお子さんには理解し実行することが難しい場合があります。「部屋を片付けなさい」「明日の準備をしなさい」といった指示は、具体的な行動が見えにくいため、どこから手をつけて良いか分からずフリーズしてしまうことがあります。
- 具体的な方法:
- チェックリストや手順書を作成する: 視覚的にタスクの全体像と各ステップを明確にします。「宿題をする」→「①机の上を片付ける」「②鉛筆と消しゴムを出す」「③国語のドリルを開く」「④1ページ目の問題を解く」のように、可能な限り細かくステップを書き出します。イラストや写真を使うと、より分かりやすくなります。
- ホワイトボードやボードを使う: その日の予定ややるべきことを書き出し、終わったら消していく、あるいはマグネットを移動させるなど、達成感を目で見て感じられるようにします。
- タイマーを活用する: 「このタスクは〇分で終わらせよう」「〇分経ったら次のステップに進もう」のように、時間の区切りを目で見えるようにします。デジタルタイマーだけでなく、砂時計や時間経過が色で表示されるタイマーなども有効です。
2. 具体的な声かけで行動を促す
指示を出す際の声かけも、実行機能のサポートには重要です。抽象的な指示ではなく、具体的で肯定的な声かけを心がけましょう。
- 声かけの例:
- 「宿題を始めようね」ではなく、「まず、机の上の教科書とノートを片付けようか?」と具体的な最初のステップを示唆する。
- 「早くしなさい」ではなく、「この課題を〇分で終わらせてみよう。タイマーをセットするね」と具体的な時間目標を示す。
- 「これで終わり?」ではなく、「これが終わったら、次は〇〇をするんだよね? チェックリストを見て確認しようか」と次の行動や確認方法を促す。
- 行動を開始できないとき、「何から始めたら良いか分からなくて困っているのかな? 一緒に最初のステップを確認してみようか」と共感とサポートを示す。
- 完璧にできなくても、「ここまではできたね! すごいね。次はここをやってみようか」とできた部分を認め、次のステップを促す。
3. 時間感覚を育む工夫を取り入れる
発達障がいのあるお子さんにとって、時間の流れや感覚を掴むことは難しい場合があります。「あとで」「少ししたら」といった曖昧な表現は避け、具体的な時間を示すことが大切です。
- 具体的な方法:
- 視覚的なタイマー: 前述の通り、時間経過が分かりやすいタイマーを使います。
- 特定の活動時間を設定する: 「テレビは〇時まで」「お風呂は〇分」のように、活動に時間の枠を設ける習慣をつけます。
- ルーティンを作る: 毎日決まった時間に同じ活動を行うことで、体で時間の流れを感じるようにします。「〇時になったらお風呂に入る時間」「朝ごはんの後は着替える時間」のように、特定の行動と時間を紐づけます。
- 未来の出来事を具体的に示す: 「明日の〇時にはおばあちゃんの家に行くよ」「来週の月曜日は遠足だね」のように、具体的な日付や時間を繰り返し伝え、未来の出来事を意識できるように促します。
4. 成功体験を積み重ね、自信を育む
計画通りに物事を進めることや、時間内にやり遂げることは、お子さんにとって大きな自信につながります。結果だけでなく、計画を立てようとしたプロセスや、難しくても諦めずに取り組んだ努力を認め、具体的に褒めることが重要です。
- 声かけの例:
- 「チェックリストを見ながら自分で準備できたね! すごい!」「タイマーを見て時間内に終わらせられたね、頑張ったね!」のように、具体的にどのような行動が良かったのかを伝えます。
- 「難しい課題だったけど、諦めずに最後まで取り組もうとした姿勢が素晴らしいね」のように、結果に至るまでのプロセスや努力を認めます。
長期的な視点と応用
これらのサポートは、お子さんの年齢や発達段階に応じて変化させていく必要があります。最初は親がほとんどの計画を立ててサポートする形でも構いません。少しずつ、お子さん自身が「次はどうしようか」「何から始めようか」と考える機会を増やしていくことが、自立に向けた重要なステップとなります。
また、学校や放課後デイサービスなど、他の機関との連携も欠かせません。家庭での成功事例や課題、効果的だったサポート方法などを共有することで、一貫したサポートがお子さんの成長をさらに後押しします。お子さんの実行機能の課題について、学校の先生や担当の支援員と積極的に情報交換を行いましょう。
完璧を目指す必要はありません。計画通りにいかない日があっても、それは自然なことです。失敗から学び、次の機会に活かすという前向きな姿勢を、お子さんと一緒に育んでいくことが大切です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんの計画力や実行機能の苦手さは、日々の生活の中で様々な困難をもたらすことがあります。しかし、これは決して改善しないものではなく、適切な環境調整や具体的なサポートによって、少しずつスキルを育んでいくことが可能です。
今回ご紹介した「見える化」「具体的な声かけ」「時間感覚を育む工夫」「成功体験を積む」といった方法は、家庭ですぐに実践できるヒントとなるでしょう。
一人で抱え込まず、必要であれば専門機関や他の保護者の方と情報を共有し、サポートを求めることも大切です。お子さんのペースに合わせて、根気強く、そして前向きに、お子さんの「できた!」を一緒に増やしていきましょう。