【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの学校での困りごと:授業・休み時間など、場面別の対応策と家庭・学校の具体的な連携ヒント
発達障がいのあるお子さんを育てていらっしゃる保護者の皆様は、日々、お子さんの成長をサポートしながら、様々な課題に向き合っていらっしゃることと思います。基本的な対応方法については既にご存知のことと存じますが、お子さんが学校生活を送る中で、これまでのやり方だけでは難しい新たな困りごとが生じることも少なくありません。特に、授業中や休み時間など、特定の場面での対応は、家庭だけでは解決が難しく、学校との連携が不可欠となります。
この記事では、お子さんの学校での困りごとに対し、家庭と学校がどのように協力し、具体的な対応策を立てていくか、そのための実践的なヒントをご紹介いたします。お子さんが学校で安心して過ごし、その子らしく成長していくために、ぜひ日々のサポートにご活用いただければ幸いです。
なぜ学校で困りごとが起きやすいのか?
学校という環境は、集団での活動が中心となり、多くのルールや予測しにくい出来事が存在します。発達障がいのあるお子さんは、特性として、情報の受け取り方や処理の仕方、対人関係やコミュニケーション、環境の変化への対応などに違いがあるため、学校の構造化されていない状況や、暗黙のルール、集団行動の中で困難を感じやすいことがあります。
例えば、
- 授業中: 多くの情報(先生の話、板書、周りの音、友達の動き)が同時に飛び交う中で、必要な情報を選び取るのが難しい、指示の意図を汲み取るのが難しい、座っているのが難しい、自分の興味のあることだけに集中してしまう、などが考えられます。
- 休み時間: 遊びのルールが曖昧、友達との関わり方が分からない、話題についていけない、一人で過ごす場所がない、など、対人関係や unstructured な時間での過ごし方に難しさを感じることがあります。
- 移動や切り替え: 授業間の移動、休み時間から授業への切り替え、体育や音楽など特別教室への移動など、場所や活動の切り替えが苦手なことがあります。
これらの困りごとは、お子さんの「わがまま」や「反抗」ではなく、特性が環境と合わないことで生じるものです。そして、これらの困りごとへの対応には、家庭と学校が協力し、お子さんの特性を理解した上で、具体的なサポートを計画・実行することが求められます。
特定の場面での困りごとへの対応と家庭・学校連携
学校での困りごとへの対応は、まず「どのような場面で」「具体的にどんな困りごとが」「なぜ起きているのか」を、お子さんの特性と照らし合わせて理解することから始まります。そして、その理解を学校と共有し、共通の認識を持つことが非常に重要です。
授業中の困りごとへの連携
困りごとの例:
- 先生の話や指示が聞き取れない、理解できない
- 席に座っていられず、立ち歩いたり席を離れたりする
- 特定のことに過度に集中し、他の指示が入らない
- 授業中に独り言を言ったり、 unrelated な発言をしたりする
- 課題を始めるのに時間がかかる、終わらせられない
連携のポイントと具体的なアクション:
- 困りごとの「見える化」: 保護者の方は、家庭でのお子さんの様子や、学校での困りごとについてお子さんから聞いた話、連絡帳でのやり取りなどを通して、どのような時に、どのような困りごとが起きやすいか、具体的な状況を整理します。可能であれば、お子さん自身に困っていることを絵や文章で表現してもらうことも有効です。
- 学校への情報提供: 学校には、整理した困りごとの状況に加え、「家庭ではこんな声かけや工夫でうまくいくことがある」「お子さんはこんなことに関心がある」「聴覚情報よりも視覚情報で理解しやすいようだ」など、家庭での対応や、お子さんの特性に関する具体的な情報を提供します。連絡帳だけでなく、学期ごとの面談などを活用し、より詳しく伝える機会を持つと良いでしょう。
- 学校での具体的な対応策の検討: 学校側で、お子さんの特性や困りごとに合わせた具体的な工夫を検討してもらいます。例えば、
- 席順の工夫(窓際を避ける、前の方に座るなど)
- 指示の伝え方(一度に伝えすぎない、視覚的な情報と併用する、個別指示など)
- 集中するための工夫(イヤーマフの使用、パーティションの設置など)
- 課題の調整(量を減らす、時間制限を設ける、スモールステップにするなど)
- 休憩の許可(タイマーを使用し、決まった時間になったら休憩を取るなど)
- 家庭でのサポート: 学校での対応策と連携し、家庭でも同様の工夫や練習を取り入れます。例えば、学校で指示の聞き取りに視覚ツールを使う場合は、家庭でも同様のツールを使ってみる。学校でタイマー休憩を取り入れている場合は、家庭での学習時間にも取り入れるなどです。また、授業内容でつまずいている部分があれば、家庭で丁寧にフォローすることも大切です。
- 定期的な情報交換: 学校と家庭で定期的に情報交換を行います。「あの工夫はどうでしたか?」「家庭ではこんな変化がありました」など、お互いの状況を共有し、対応策の効果を評価し、必要に応じて見直しを行います。連絡帳、電話、短い立ち話なども活用できますが、可能であれば定期的な面談を設定し、落ち着いて話し合う時間を設けるのが理想的です。
具体的な声かけ・連携のフレーズ例(保護者から学校へ):
- 「授業中に集中が続かないことがあるようですが、家庭では〇〇(好きなこと)に関わっている時は驚くほど集中できます。学校では、〇〇(興味のあるもの)を教材に取り入れていただくことは可能でしょうか?」
- 「聴覚からの指示だけだと、時々聞き漏らしてしまうことがあるようです。文字に書かれたものや、絵での指示と合わせていただけると助かります。家庭では、予定ややることをリストにして貼っておくとスムーズにいくことが多いです。」
- 「席を離れてしまうことがあるとのこと、ご心配をおかけしております。〇〇(お子さんの名前)は、体を動かさないでいるのが少し苦手なようです。もし可能であれば、授業中に短い休憩(例: 立って伸びをする、窓の外を少し見るなど)を許可していただけるとありがたいのですが。」
休み時間の困りごとへの連携
困りごとの例:
- 友達との遊びに入れず、一人で過ごしている
- 遊びのルールが分からず、トラブルになってしまう
- 休み時間に何をしたら良いか分からず、手持ち無沙汰にしている
- 特定の遊びや場所へのこだわりが強く、融通が利かない
- 友達からのからかいやいじめの対象になってしまう
連携のポイントと具体的なアクション:
- 休み時間の過ごし方の把握: 学校での休み時間の具体的な様子を先生から詳しく聞き取ります。「誰とどのように過ごしているか」「トラブルになるのはどんな時か」「どこで過ごしていることが多いか」など、具体的な状況を把握します。
- お子さんの興味・関心の共有: 家庭でのお子さんの好きなこと、興味を持っていること、得意なことなどを学校に伝えます。「家では〇〇(特定のゲームや本、遊びなど)に夢中です」「〇〇(特定のスキル)が得意です」など、具体的な情報を共有することで、学校での過ごし方のヒントになることがあります。
- 学校での居場所作り・活動の提案: 学校側で、お子さんが安心して過ごせる場所(図書室、保健室、特定の先生のところなど)や、一人でも楽しめる活動(読書、絵を描く、先生のお手伝いなど)を提案してもらうことを相談します。また、少人数のグループでの活動や、共通の趣味を持つ友達との関わりをサポートしてもらうことも検討します。
- ソーシャルスキルトレーニングの視点: 友達との関わりで困りごとがある場合は、具体的なソーシャルスキル(誘い方、断り方、負けた時の気持ちの切り替え方など)を学校で指導してもらうことを相談します。家庭でも、ロールプレイングなどを通して練習したり、友達との肯定的な関わりを具体的に褒めたりすることが有効です。
- トラブル発生時の対応共有: 友達とのトラブルが発生した場合、学校での状況と対応、お子さんの反応などを詳しく共有してもらいます。家庭では、お子さんの気持ちを受け止めつつ、何が起きたのか、どうすれば良かったのかなどを一緒に振り返り、次に繋げるための話し合いを行います。学校と家庭で、トラブル発生時の声かけや対応の方向性を一致させることが望ましいです。
具体的な声かけ・連携のフレーズ例(保護者から学校へ):
- 「休み時間、一人で過ごしていることが多いと伺いました。家庭では、〇〇(特定の遊びや活動)がとても好きで、集中して取り組んでいます。もし学校で〇〇ができる場所や時間があれば、お子さんも安心して過ごせるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」
- 「お友達とのトラブルがあったとのこと、ご心配をおかけしております。家庭では、相手の気持ちを想像したり、自分の気持ちを言葉にしたりするのが少し苦手なようです。もし学校で、具体的な関わり方について教えていただく機会があれば、大変ありがたいです。」
- 「からかいやいじめについて、もし何かございましたら、どんな小さなことでも構いませんので、ご連絡いただけますでしょうか。家庭でもお子さんの様子をよく見て、学校と協力して対応していきたいと考えております。」
連携を円滑にするための具体的なヒント
学校との連携は、一方的な要望を伝える場ではなく、お子さんの成長という共通の目標に向かって、お互いの状況を理解し、協力し合うパートナーシップです。
- 感謝の気持ちを伝える: 先生方は日々、多くのお子さんに関わり、様々な業務をこなしています。お子さんのために尽力してくださっていることへの感謝の気持ちを伝えることで、良好な関係性を築くことができます。
- 具体的に、簡潔に伝える: 困りごとや要望を伝える際は、「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにした」という5W1Hを意識し、具体的かつ簡潔に伝えるように心がけます。抽象的な表現や、感情的な訴えだけでは、先生も状況を把握し、対応を検討するのが難しくなります。
- 学校の状況や立場への配慮: 学校には多くの児童・生徒がおり、リソースにも限りがあります。要望を伝える際は、学校の状況や立派も理解しようと努め、実現可能な範囲での対応を共に考える姿勢が大切です。
- 「こうして欲しい」だけでなく「こうすればうまくいくことがある」という提案: 困りごとに対する解決策や対応方法を提案する際は、「学校でこれをやってください」という一方的な依頼ではなく、「家庭ではこうすることでうまくいくことがあるのですが、学校でも試してみる価値はあるかもしれません」といった提案の形にすると、学校側も受け入れやすくなります。
- ポジティブな情報も共有する: 困りごとだけでなく、お子さんが学校で頑張っていることや、できるようになったことなど、ポジティブな情報も積極的に共有しましょう。お子さんの成長を共に喜び、学校側もお子さんの良さに改めて気づくきっかけとなります。
- 困りごとが改善しない場合の次のステップを考える: いくつかの対応策を試しても、なかなか困りごとが改善しない場合もあります。その際は、一人で抱え込まず、学校の先生と相談し、スクールカウンセラーや外部の専門機関(児童相談所、発達障害者支援センター、医療機関など)への相談、教育支援委員会での検討など、次のステップについて話し合いましょう。学校側も、より専門的な視点からのアドバイスを得ることで、対応の幅が広がる可能性があります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんの学校での困りごとは、お子さんが新しい環境に適応し、成長していく上で直面する自然なステップの一部と捉えることができます。これらの課題に効果的に対応するためには、保護者と学校が「チーム」として、お子さんの特性を深く理解し、具体的な情報を共有し、根気強く連携していくことが不可欠です。
お子さんの「困りごと」は、その子の「個性」が環境との間で生み出すサインでもあります。そのサインに丁寧に耳を傾け、学校と協力して、お子さんにとってより良い環境を共に作っていくことが、お子さんが自信を持って学校生活を送り、将来の社会生活に繋がる大切な経験を積むことに繋がります。一人で抱え込まず、学校の先生方や、必要に応じて他の保護者、専門機関とも繋がりながら、お子さんの成長をサポートしていきましょう。