【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの「自分で決める力」を育む家庭での応用ヒント
発達障がいのあるお子さんの子育てにおいて、日々の基本的な対応に加えて、将来の自立を見据えた応用的なスキル育成に関心を寄せている保護者の方も多いかと存じます。今回は、お子さんが社会の中で自分らしく生きていくために非常に重要な「自分で選び、決める力」を家庭で育むためのヒントを、経験のある保護者の皆様に向けてお伝えします。
「自分で決める力」がお子さんの成長にとって重要な理由
「自分で決める力」、すなわち意思決定力は、自己肯定感の向上、責任感の醸成、そして将来的な自立した生活の基盤となります。自分の意思で選択し、その結果を受け止める経験を積み重ねることで、お子さんは「自分にはできる」という自信を育み、困難な状況でも自ら考え行動する力が身についていきます。
発達障がいのあるお子さんの中には、選択肢が多すぎると混乱してしまったり、特定のこだわりから抜け出せなかったり、見通しを持つことが難しいために決定に不安を感じたりすることがあります。しかし、適切なサポートがあれば、お子さんのペースでこの力を伸ばしていくことは十分に可能です。
家庭で「自分で決める力」を育むためのステップ
日々の生活の中に、お子さんが自分で決める機会を意図的に作っていくことが大切です。小さなステップから始めて、成功体験を積み重ねていきましょう。
ステップ1:小さな選択から始める
まずは、お子さんにとって負担の少ない、簡単な二者択一などから始めるのが効果的です。
- 具体例:
- 今日の洋服を2〜3枚の中から選んでもらう
- おやつを数種類の中から選んでもらう
- 遊びたいおもちゃや本を選んでもらう
- 夕食のメニューを2つから選んでもらう
- 声かけ例:
- 「今日はどっちのシャツを着る? こっちの青いの? それとも、そっちの赤いの?」
- 「おやつはクッキーとゼリー、どっちにする?」
- 「今日は外で遊ぶ? それともお家で工作する?」
- ヒント:
- 選択肢は厳選し、迷いすぎない数に絞ります。
- 選択肢を絵カードや写真など、視覚的に提示するのも有効です。
- お子さんが指差しなどで意思表示できるよう促しましょう。
ステップ2:選んだ理由を言葉にするサポート
自分で選んだことに対し、簡単な言葉で理由を表現する練習を取り入れます。これにより、思考のプロセスを促します。
- 具体例:
- お子さんが何かを選んだ後で、「どうしてそれにしたの?」と優しく尋ねる。
- お子さんの答えに対して、「〇〇だから好きなんだね」「そうか、△△できると思ったんだね」などと共感したり、考えを言語化する手伝いをしたりする。
- 声かけ例:
- 「そのおもちゃにしたのは、どんなところが面白そうだったから?」
- 「こっちのおやつにしたのは、甘いのが食べたかったからかな?」
- ヒント:
- 正しい理由や論理的な説明を求めるのではなく、お子さんが感じたことや考えたことをそのまま受け止め、肯定的にフィードバックします。
- 理由が言葉にならない場合は、「これが楽しそうだった?」「前に食べたことあるから?」など、選択肢を示しながら尋ねることも有効です。
ステップ3:選んだ結果を受け止め、次に活かす経験をサポート
自分で決定した結果が良いものでもそうでない場合でも、その結果を経験として次に繋げるサポートを行います。
- 具体例:
- 自分で選んだ服が着心地が悪かった、選んだ遊びが思ったより楽しくなかったなど、期待と違う結果になった場合に、「そうだったんだね」と共感する。
- うまくいかなかった場合でも、「次はどうしてみようか?」と一緒に考えたり、「こうすればもっと良くなるかもしれないね」と改善のヒントを与えたりする。
- 声かけ例:
- 「そのおやつ、ちょっと甘すぎたかな? でも、自分で選んで食べてみた経験は大事だよ。次は違うのにしてみる?」
- 「この遊び、難しかったね。次はもっと簡単なのから挑戦してみようか? それとも、やり方を変えてみる?」
- ヒント:
- 失敗を否定せず、「学びの機会」として捉える姿勢を保護者が示します。
- 結果に対する感情を受け止めつつ、建設的な次の行動を促します。
応用的なヒント:少し複雑な意思決定への移行
小さな選択に慣れてきたら、もう少し複雑な意思決定にも挑戦してみましょう。
- 選択肢の提示方法を工夫する:
- 単に口頭で伝えるだけでなく、選択肢のメリット・デメリットを一緒に書き出してみる(お子さんの理解度に合わせて、絵や簡単な言葉で)。
- 決定までのフローチャートを簡単なものから作成し、視覚的に意思決定のプロセスを理解できるようにサポートする。
- 時間管理と組み合わせる:
- 「〇時まで」「〇分間」など、考える時間を設定することで、時間内に決定する練習にもなります。
- 決定までの期限がある場合は、それを明確に伝え、逆算して考える練習を促します。
- 役割演技を取り入れる:
- お店での買い物、レストランでの注文など、実際の場面を想定したロールプレイングで、意思決定とその伝え方の練習をします。
- こだわりの強い場合への対応:
- お子さんの強いこだわりがある選択肢も、可能な範囲で考慮に入れます。
- こだわり以外の選択肢にも目を向けられるよう、「今回はこれにチャレンジしてみない?」「いつもの〇〇も良いけど、たまには△△も楽しいかもしれないよ」など、新しい選択肢への関心を引く声かけをします。
- 妥協点を見つける練習として、「今日は△△にして、明日はいつもの〇〇にしようか」といった提案も有効です。
長期的な視点と保護者・関係機関との連携
お子さんが成長し、将来の進路や社会生活に関わる大きな意思決定をする際に、この「自分で決める力」が非常に重要になります。家庭での日々の練習は、そのための土台作りです。
保護者自身が、お子さんの意思決定を尊重し、見守る姿勢を持つことも大切です。つい先回りして決めてしまいたくなることもあるかもしれませんが、お子さんのペースに合わせて任せてみる勇気も必要です。
また、学校や放課後デイサービスの指導員の方と、お子さんの意思決定に関する目標や家庭での取り組みについて情報共有し、連携することも有効です。支援者と家庭が一貫した関わりをすることで、お子さんは混乱なくスキルを習得しやすくなります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんの「自分で決める力」を育むことは、日々の小さな選択の機会を大切にし、お子さんのペースに合わせてステップを踏んでいくことから始まります。この力は、お子さんが将来、自分らしく、主体的に生きていくための大きな力となります。
根気強く、お子さんの頑張りを肯定しながらサポートを続けていきましょう。保護者だけで抱え込まず、必要に応じて専門機関や他の保護者の方と情報交換することも、心強い支えとなります。この記事が、皆様の家庭での実践のヒントとなれば幸いです。