【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの「未来」を描く力を育む:自己理解を深め、進路情報を集める家庭での応用ヒント
はじめに
お子さんの成長とともに、将来の進路について考える機会が増えてきた保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。発達障がいのあるお子さんの場合、将来の「働く」ことや「自立した生活」について、いつから、どのように準備を進めていくべきか、悩まれることもあるかもしれません。基本的な知識はお持ちでも、より具体的に、お子さん自身の意欲を引き出しながら進路を考えるためのサポート方法について、応用的な視点での情報をお探しの方もいらっしゃるかと思います。
この記事では、発達障がいのあるお子さんが自身の特性を理解し、将来の可能性を広げるための進路情報を収集するプロセスを、家庭でどのようにサポートできるかに焦点を当てています。お子さん自身が主体的に未来を描く力を育むための、具体的なヒントや声かけをご紹介します。
なぜ将来の進路について早期からのサポートが必要か
発達障がいのあるお子さんにとって、将来の進路選択や社会への移行は、定型発達のお子さんとは異なる特性による困難さを伴う場合があります。例えば、
- 抽象的な将来像を描きにくい
- 興味の対象が限られている、あるいは多岐にわたりすぎて絞れない
- 自身の得意なことや苦手なことを客観的に把握することが難しい
- 多様な進路選択肢や社会の仕組みに関する情報を効果的に収集・整理することが苦手
- 変化や未知の環境への適応に時間がかかる
といった特性が影響することがあります。そのため、中学・高校生になってから慌てて進路を検討するのではなく、幼少期や学童期から、お子さんの「好き」「得意」といった肯定的な側面に目を向け、将来につながるかもしれないヒントを家庭の中で積み重ねていくことが有効と考えられます。これは、お子さんが自身の「強み」に気づき、自信を持って将来を考えるための土台となります。
自己理解を深めるための家庭での具体的なサポート
将来の進路を考える上で最も重要になるのは、お子さん自身が「自分は何が好きか」「どんなことが得意か」「どんなことが苦手か」「どんな環境だと力を発揮しやすいか」といった自己理解を深めることです。家庭では、以下のような具体的な方法でサポートすることができます。
1. 「好き」や「得意」の言語化・視覚化をサポートする
お子さんが夢中になっていること、楽しそうに取り組んでいることについて、具体的に言葉にして共有する機会を設けましょう。
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声かけ例:
- 「〇〇(具体的な行動、例:ブロックで難しい形を作る)をしている時、すごく集中しているね。どんなところが楽しいの?」
- 「この前△△(具体的な成果、例:作った絵)を見せてもらったけど、□□(具体的な特徴、例:色がとてもきれい)だったね。〇〇さんは色を組み合わせて表現するのが得意なのかもしれないね。」
- 「図鑑で動物のことを調べるのが本当に好きだね。特にどんな動物の、どんなところが好き?」
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具体的な活動例:
- 「好きリスト」「得意リスト」を一緒に作成する。文字だけでなく、絵や写真、具体的な行動の記録(動画など)も活用する。
- 日常の中で「これは得意なこと」「これは好きなこと」といったラベル付けを意識して声かけする。
- 成功体験を具体的に振り返り、「あの時、〇〇さんのこんな力が役に立ったね」と伝える。
2. 「苦手」を理解し、肯定的に捉え直すサポート
苦手なことや困難に感じることについても、否定的に捉えるのではなく、特性として理解し、どのような工夫やサポートがあれば乗り越えられるか、あるいは避けることができるかを一緒に考えます。
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声かけ例:
- 「大きな音は苦手だね。音が小さい場所や、イヤーマフを使うと少し楽になるかな?」
- 「初めての場所に行くのは緊張するね。行く前に写真を見たり、地図で調べたりすると、少し安心できるかもしれないね。」
- 「細かい計算は時間がかかることがあるね。電卓を使ったり、誰かに手伝ってもらったりする方法もあるよ。」
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具体的な活動例:
- 「苦手なことリスト」や「困ることリスト」を作成し、それぞれに対して「どうすれば少し楽になるか」「どんなサポートが必要か」を書き出す。「自分のトリセツ」を改訂・発展させる視点です。
- 苦手なことの裏にある「強み」に目を向ける声かけをする。例:「複数のことを同時にするのは難しいけれど、一つのことに集中して深く掘り下げられるのは〇〇さんのすごいところだね。」
3. 多様な経験を通じて自己理解を深める
様々な活動や場所を経験することで、お子さん自身が「自分はこれが好き/苦手」「こういう環境は合いそうだ/難しそうだ」といった気づきを得られる機会を提供します。
- 地域のイベント、職業体験イベント、美術館や科学館訪問、ボランティア活動、様々な習い事への参加など。
- 興味を持ったことに関連する場所(工場見学、農場体験、お店のバックヤード見学など)があれば、問い合わせて見学させてもらうことも検討します。
進路に関する情報収集をサポートする家庭での具体的な方法
お子さんが自己理解を深めることと並行して、社会にはどのような仕事や学びの場があるのか、多様な選択肢を知るサポートも重要です。
1. 多様な進路選択肢を分かりやすく提示する
お子さんの特性や興味関心に合わせて、中学校卒業後の進路(特別支援学校高等部、高等専修学校、通信制高校など)、高校卒業後の進路(大学、専門学校、就職、就労移行支援事業所など)について、多様な選択肢があることを伝えます。
- 具体的な情報提供の方法:
- 文字情報だけでなく、写真や動画、図解などを活用する。
- 学校や仕事の種類をカードにして分類したり、マップにしたりする。
- ドラマやドキュメンタリーなど、具体的な職業が描かれているものを見る。
- お子さんの興味に関連する仕事をしている人の話を聞く機会を作る。
2. 信頼できる情報源から情報を集めるサポート
インターネットや書籍だけでなく、以下のような公的機関や専門機関が提供する信頼性の高い情報を活用します。
- ハローワーク(専門援助部門など)
- 地域障害者職業センター
- 就労移行支援事業所
- 特別支援学校の進路指導室
- 各自治体の福祉担当窓口
- 障害者就業・生活支援センター
これらの機関のウェブサイトを一緒に見たり、パンフレットを取り寄せたり、可能であれば見学や相談に行ったりする機会を設けます。
3. 抽象的な情報を具体化する工夫
進路に関する情報は、お子さんにとって抽象的で理解が難しい場合があります。具体的なイメージを持てるように工夫が必要です。
- 学校や事業所のパンフレットの「カリキュラム」を、実際に何をするのか具体的な活動に置き換えて説明する。
- 例:「ビジネスマナー」の授業があるらしいよ。これは、会社で働く時のあいさつの仕方や、言葉遣いを練習する時間のことみたいだね。
- 興味を持った仕事について、具体的な一日の流れや使う道具などを図や写真で示す。
- 可能であれば、短期間の体験(インターンシップ、作業所での体験など)に参加することを検討する。
自己理解と情報収集を「繋げる」サポート
自己理解と情報収集は別々に行うのではなく、連動させて考えることが重要です。
- 「〇〇さんは動物が好きで、細かい特徴に気づくのが得意だね。動物園の飼育員さんや、獣医さんの助手さんといった仕事があるみたいだけど、興味はある?」のように、自己理解で得た「好き」や「得意」と、集めた情報を結びつける声かけをします。
- 「もし△△(興味のある仕事)をするなら、□□(必要なスキルや資格、環境など)が必要みたいだよ。今の〇〇さんの得意なことと比べて、足りない部分はどんなことがあるかな?それを学ぶにはどんな学校があるか、一緒に調べてみようか。」のように、具体的な将来像から逆算して、今学ぶべきことや経験すべきことを考えるサポートをします。
- 一度で全てを決めようとせず、いくつかの可能性を探り、試しに調べてみたり、関連する体験をしてみたりと、スモールステップで進めることを意識します。
学校や外部機関との連携
お子さんの進路について考える際には、一人で抱え込まず、学校の先生(担任、特別支援コーディネーター、進路指導担当)、スクールカウンセラー、必要に応じて教育センターや福祉サービス事業所など、関係機関と積極的に連携することが非常に重要です。
- お子さんの家庭での様子や、保護者が感じているお子さんの強みや課題について具体的に伝える。
- 学校での学習状況や友人関係、進路に関する情報の提供状況について聞く。
- 外部機関が提供する進路相談会やセミナーの情報について教えてもらう。
- お子さんに合った進路先に関する情報や、必要なサポートについて専門的なアドバイスを求める。
保護者と学校、外部機関が情報共有を密に行い、共通理解を持ってサポートすることで、お子さんにとって最善の進路選択につながる可能性が高まります。
保護者自身の心構え
お子さんの進路について考えることは、保護者にとっても大きな課題です。焦りや不安を感じることもあるかもしれません。しかし、何よりも大切なのは、お子さんのペースを尊重し、多様な価値観を認める姿勢です。
- 必ずしも大学進学や正社員での就職だけが「成功」ではありません。お子さんが自分らしく、無理なく社会と関わり、幸せに生活できる形は多様に存在します。
- 保護者が一方的にレールを敷くのではなく、お子さんの気持ちや考えを丁寧に聞き取りながら、一緒に考えていくスタンスが重要です。
- 進路について考えるプロセスそのものが、お子さんにとって大きな成長の機会となります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが将来の進路を主体的に考えるためには、早期からの自己理解のサポートと、多様な進路に関する具体的な情報提供が不可欠です。家庭で日常的に「好き」「得意」に目を向け、苦手なことも肯定的に捉え直す声かけや活動を取り入れましょう。また、文字情報だけでなく、視覚情報や体験を通じて具体的なイメージを持てるような情報収集をサポートし、お子さんの特性と情報を結びつける対話を重ねてください。
このプロセスは決して一人で進めるものではありません。学校や専門機関と積極的に連携し、様々なサポートを活用しながら、お子さんが自分らしい未来を描く力を育んでいきましょう。保護者の方々も、ご自身の心身を大切にしながら、お子さんの成長を見守っていただければと思います。