【経験者向け】発達障がい児の「興味がないこと」にどう向き合うか:背景理解と家庭でできる応用サポート
はじめに
お子さんが特定のことに強い興味やこだわりを持つ一方で、全く興味を示さないこと、あるいは「やりたくない」と強く拒否することがあり、日々の生活や学習の中で保護者の方が対応に苦慮される場面も少なくないかもしれません。特に、学校の宿題、お手伝い、特定の習い事など、お子さんの興味とは直接関係ないけれど、取り組む必要がある課題に対して、どのように働きかけたら良いのか、これまでの基本的な方法だけでは難しさを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この課題は、単に「わがまま」や「やる気がない」というわけではなく、発達障がい特性、特に注意の向け方や、目標達成に向けたエネルギーの使い方の特性と深く関連していることがあります。この記事では、なぜ発達障がいのあるお子さんが興味のないことへの取り組みを難しく感じやすいのか、その背景を理解し、家庭で実践できる、一歩踏み込んだ応用的なサポート方法や声かけのコツについてお伝えします。お子さんの「やりたくない」という気持ちに寄り添いながら、必要なことへ取り組む力を育むヒントとして、ぜひお役立てください。
なぜ「興味がないこと」への取り組みが難しいのか?背景にある特性の理解
発達障がいのあるお子さんが興味のないことへの取り組みを難しく感じる背景には、いくつかの発達特性が関係していると考えられます。これらの特性を理解することは、お子さんへの適切なサポートを行う上で非常に重要です。
- 注意の方向性: 発達障がい、特にADHD特性のあるお子さんは、自分の興味や関心を強く引くものには注意が向きやすく、それ以外の刺激や情報には注意を向け続けることが難しい傾向があります。これは意図的なものではなく、脳の機能的な特性によるものです。そのため、「面白そう」「やってみたい」と感じない課題に対しては、そもそも注意を向けて始めることが難しくなります。
- 報酬系の機能: 課題に取り組むことへの「報酬」(達成感、褒められる、良い結果を得るなど)を感じにくい、あるいは感じ方が定型発達のお子さんと異なる場合があります。特に、短期的な報酬が見えにくい、あるいは内的な報酬(達成感そのもの)につながりにくい課題は、取り組む動機が生まれにくくなります。
- 実行機能の課題: 課題の開始、計画、実行、維持、完了といった一連のプロセスを司る「実行機能」に弱さがある場合、たとえ必要だと分かっていても、「よし、始めよう」と一歩を踏み出すことや、飽きずに続けることが難しくなります。特に興味のない課題は、この実行機能への負荷が大きくなります。
- 感覚処理の違い: 特定の感覚刺激(紙の質感、ペンの音、特定の匂いなど)が不快であったり、集中を妨げたりする場合、その課題自体への抵抗感が増し、取り組むことがより困難になることがあります。
- 完璧主義や失敗への強い恐れ: 失敗したくない、完璧にできないならやりたくない、という気持ちが強い場合、特に苦手意識のある興味のない課題に対して、取り組むこと自体を回避する傾向が見られることがあります。
これらの背景を理解することで、お子さんの「やりたくない」という行動を「困りごと」としてだけでなく、「特性による難しさの表れ」として捉え、共感的な視点を持ってサポートを考えることができます。
家庭でできる具体的な応用サポートと声かけのヒント
お子さんの「興味がないこと」への取り組みをサポートするためには、これらの背景にある特性を踏まえた、より具体的で工夫を凝らしたアプローチが必要です。基本的な声かけや環境設定に加えて、以下のような応用的なヒントを試してみてはいかがでしょうか。
1. 課題の「意味づけ」と「必要性」を丁寧に伝える
「なぜこれをやる必要があるのか」という理由や、お子さんにとってのメリット(たとえ遠い未来のことであっても)を、具体的かつお子さんの理解できる言葉で丁寧に伝えることが重要です。抽象的な説明ではなく、お子さんの日常や興味と関連付けて話す工夫をします。
- 声かけ例:
- 「この計算ドリルは、お買い物に行った時に合計金額をすぐに計算できるようになる練習だよ。お菓子をたくさん買う時に役に立つね」
- 「部屋を片付ける練習をすると、明日学校に行く準備がスムーズにできるようになるし、遊びたいものがすぐに見つかるようになるよ」
- 「今は難しくても、少しずつできるようになると、〇〇君(お子さんの名前)が将来やりたいと思っている△△(興味のあること)にもきっと役立つ時が来るかもしれないね」
2. 課題の「見える化」と「スモールステップ化」を徹底する
興味のない課題は、全体像が見えなかったり、どこから手をつけて良いか分からなかったりすると、ますます取り掛かりが難しくなります。課題を細かく分解し、それぞれのステップを視覚的に示しましょう。
- 具体的な方法:
- チェックリストやタスクボードの活用: 課題を小さなステップに分解し、一つ終わるごとにチェックを入れられるようにします。例えば、「宿題をする」ではなく、「今日の宿題リスト:漢字ドリルP〇、計算ドリルP〇、音読」のように具体的に示し、さらに漢字ドリルなら「①教科書を開く」「②今日の漢字を確認する」「③ノートに3回ずつ書く」「④合っているか確認する」「⑤先生に見せる準備をする」のように、さらに細かく分解します。
- タイマーの活用: 「まずは5分だけやってみよう」「このタイマーが鳴るまで集中しよう」など、時間で区切ることで、終わりの見通しを持たせ、取り組みやすくなります。
- 場所の固定: 課題に取り組む場所を固定し、必要な道具(筆記用具、参考書など)をすぐに取り出せるようにしておくと、始める際のハードルが下がります。
3. 「報酬」を多様化し、モチベーションにつなげる
必ずしもご褒美のような物質的な報酬だけでなく、お子さんが「やって良かった」と思えるような様々な報酬を設定します。
- 具体的な方法:
- 視覚的な達成感: チェックリストに✅をつける、完了した課題を積み重ねる、グラフで進捗を示すなど、終わったことが視覚的に分かるようにします。
- 肯定的な承認: 結果だけでなく、取り組み始めたこと、少しでも進んだこと、諦めずに続けたことなど、プロセスを具体的に褒めます。「始めてくれてありがとう」「この部分、すごく丁寧に書けているね」「途中で休憩したけれど、また戻ってこれてすごいね」など、具体的な行動を称賛することが重要です。
- 興味との関連付け: 課題が終わったら好きな遊びができる、興味のある本を読む時間が持てる、など、次の楽しみとセットにする方法も有効です。
- 小さな「成功体験」の積み重ね: スモールステップで目標を設定し、達成感を頻繁に味わえるようにすることで、自己肯定感を高め、「やればできる」という自信を育みます。
4. 苦手な部分をサポートし、取り組みやすさを高める
課題そのものの難易度を下げる、代替手段を検討するなど、物理的・認知的なハードルを下げる工夫も重要です。
- 具体的な方法:
- 手助け: 最初の数問だけ一緒にやる、難しい部分だけヒントを出すなど、全面的に代わりにやるのではなく、お子さんが自力でできる部分を増やす手助けをします。
- ツールの活用: 音読が苦手なら音声読み上げアプリを使う、計算が苦手なら計算機を補助的に使う(学校の許可が必要な場合もあります)、書くのが苦手ならPCを使うなど、お子さんが取り組みやすいツールを検討します。
- 休憩の保証: 集中が切れやすい場合は、あらかじめ短い休憩(例:5分)をスケジュールに組み込んでおきます。「ここまでやったら休憩ね」と伝えてから始めると、見通しが持てて取り組みやすくなります。
5. 長期的な視点で「自己理解」を深めるサポートをする
なぜ自分がこの課題を苦手とするのか、どのような工夫をすれば取り組みやすくなるのかを、お子さん自身が理解していくことも、将来的に自立して様々な課題に取り組むために重要です。
- 声かけ例:
- 「宿題、始めるのが大変そうだね。〇〇君(お子さんの名前)は、どういう時に『よし、やろう』って気持ちになれるのかな?」
- 「漢字を書くのは苦手かな? もしかしたら、集中する時間が長いと疲れちゃうのかもしれないね。5分やったら休憩してみるのはどうかな?」
- 「このやり方だとやりにくい? 他に試してみたい方法はあるかな?」
お子さん自身が自分の特性と向き合い、工夫策を見つけるパートナーとして寄り添う姿勢が大切です。
学校や専門機関との連携
家庭でのサポートだけでなく、学校の先生や放課後等デイサービスのスタッフ、または専門機関(療育施設、相談支援事業所など)と連携し、情報共有や共通理解を深めることも非常に有効です。
- お子さんが学校でどのような課題に、どのような状況で取り組んでいるか。
- 家庭でのサポート方法やうまくいった声かけ。
- 学校や専門機関で実施している支援方法。
これらの情報を共有することで、家庭と外部機関で一貫したサポートが可能になり、お子さんにとって分かりやすく、安心できる環境を提供できます。困りごとがあれば、一人で抱え込まず、積極的に相談してみてください。
まとめ
発達障がいのあるお子さんが「興味がないこと」への取り組みを難しく感じるのは、多くの場合、特性に起因するものです。それは、お子さんの「やる気がない」ということではなく、特定のサポートや工夫が必要なサインとして捉えることができます。
この記事でご紹介した、課題の「意味づけ」、徹底した「見える化」と「スモールステップ化」、多様な「報酬」の活用、苦手部分への具体的なサポート、そして長期的な「自己理解」を促す視点や外部機関との連携といった応用的なアプローチは、お子さんが必要な課題に少しずつ向き合う力を育む助けとなるはずです。
お子さんのペースに合わせ、小さな変化や成長を見逃さず、根気強く、そして肯定的にサポートを続けることが大切です。お子さんの「やりたくない」という気持ちに寄り添いながら、共に乗り越えていく方法を探る旅は、お子さんの新たな可能性を引き出すことにつながるでしょう。この情報が、日々の療育のヒントとなれば幸いです。