【経験者向け】発達障がいのあるお子さんの『時間の感覚』の困りごと:遅刻や時間の見積もりをサポートする家庭での応用ヒント
はじめに
発達障がいのあるお子さんにとって、時間という抽象的な概念を理解し、管理することは難しい場合があります。目に見えず、常に流れている時間は、感覚的に捉えにくいものです。そのため、「あとどれくらい時間がかかるか分からない」「急がないといけないのに間に合わない」「待つのがつらい」といった、時間に関する様々な困りごとが生じやすくなります。
これらの困りごとは、日常生活における遅刻や段取りの悪さだけでなく、学校や将来の自立にも影響を及ぼす可能性があります。しかし、これはお子さんの「だらしなさ」ではなく、特性からくる困難であると理解することが、サポートの第一歩です。家庭での適切なサポートを通じて、お子さんが時間の感覚を少しずつ掴み、円滑に生活できるようになるための応用的なヒントをお届けします。
発達障がいのあるお子さんにおける時間の感覚の困りごとの背景
発達障がいのあるお子さんの時間感覚に関する困難は、主に以下のような特性と関連があると考えられています。
- 抽象概念の理解の難しさ: 時間は形がなく、五感で直接捉えることができません。このような抽象的な概念を理解し、把握することが難しい場合があります。
- 見通しを立てることの難しさ: ある活動にかかる時間や、未来に何が起こるかを予測する見通しを立てることが苦手なことがあります。これにより、締め切りを守ることや、複数のタスクを時間内に終えることが難しくなります。
- 感覚過敏・鈍感: 時間の流れや経過に対する感覚が独特である可能性も指摘されています。時間の経過を長く感じすぎたり、逆に短く感じたりすることが影響している場合もあります。
- 注意機能の偏り: 興味のあることには集中できても、そうでないことには注意が向きにくく、結果として予定通りに進められないことがあります。
これらの特性が複合的に影響し、「時間の感覚が掴みにくい」「時間に合わせて行動するのが苦手」といった具体的な困りごととして現れます。
家庭で実践できる具体的なサポート方法と応用ヒント
時間の感覚に関する困りごとへのサポートは、時間を「見える化」し、具体的な体験を通じて理解を深めることが基本です。基本的な声かけや視覚支援に加えて、より応用的なアプローチを取り入れてみましょう。
1. 時間を「見る」ツールを効果的に活用する
時間の流れや区切りを視覚的に示すことは非常に有効です。
- 様々なタイマーの活用:
- 砂時計: 時間が減っていく様子が視覚的に分かりやすく、特定のアクティビティ(例:歯磨き、休憩時間)の時間を区切るのに適しています。「この砂が全部落ちるまでだよ」と具体的に声かけましょう。
- キッチンタイマー: 残り時間がデジタル表示されるものや、色が変わるタイプ(タイムタイマーなど)があります。デジタル表示は具体的な数字で時間を意識させ、色が変わるタイプは時間経過を直感的に把握するのに役立ちます。
- アプリ: スマートフォンやタブレットのタイマーアプリも活用できます。様々なデザインや機能(残り時間の表示方法など)を選べるため、お子さんに合ったものを見つけやすいかもしれません。
- 時計の種類と声かけ:
- アナログ時計とデジタル時計のどちらがお子さんにとって理解しやすいか観察しましょう。最初はデジタル時計で具体的な「〇時〇分」を伝え、慣れてきたらアナログ時計で「長い針が〇にきたら」など、時間の経過を視覚的に捉える練習を取り入れてみましょう。
- 「もう〇時だから準備を始めてね」といった抽象的な声かけだけでなく、「〇時△分になったら家を出るから、あと□分で靴を履いてね」のように、具体的な残り時間や次に取るべき行動をセットで伝える工夫が効果的です。
- 視覚的なスケジュール表:
- 一日の流れだけでなく、一つの活動(例:学校から帰宅後)の具体的な手順と、それぞれのステップにかかる時間(タイマーで計るなど)を視覚的に示すことで、段取りや時間の見積もりを学ぶサポートになります。写真、イラスト、文字など、お子さんの理解しやすい形式を選びましょう。
2. 時間の「長さ」を体験する練習
抽象的な「時間」の概念を、具体的な体験を通して身につけます。
- 活動と時間の関連付け:
- 「この短い砂時計の砂が落ちるくらいの時間でブロックを片付けよう」「タイマーが5分を知らせる間に、お気に入りの歌を2曲聞けるね」など、日常の様々な活動に時間を関連付けて声かけ、実際に時間を計ってみましょう。
- お子さんが「短い」「長い」と感じる時間を、具体的な活動(例:「短い時間=絵本1冊を読む時間」「長い時間=公園で遊ぶ時間」)と結びつけることで、体感として時間の長さを理解しやすくなります。
- 「〇分間」の感覚を掴む:
- 最初は短い時間(1分、3分、5分など)から始め、「この〇分間は△△をする時間だよ」と声かけながらタイマーを使用します。タイマーが鳴ったら、「〇分間△△ができたね!」と肯定的にフィードバックしましょう。
- 慣れてきたら、お子さんが好きな活動で「〇分間だけ自由に遊んでいいよ」と時間を区切る練習を取り入れるのも有効です。時間の制約の中で楽しむ経験を積み重ねることで、時間の意識が高まります。
3. 時間の「見積もり」を練習する
特定の活動にどれくらいの時間がかかるかを予測する練習は、将来の自立に向けて非常に重要です。
- 簡単な活動から始める:
- 「歯磨きは何分くらいかかると思う?」「着替えるのは何分でできるかな?」など、身近で予測しやすい活動から始めます。お子さんに予測してもらい、実際に時間を計ってみましょう。
- 予測と実際にかかった時間に違いがあっても、「なるほど、〇分かかったんだね。次はもう少し早くできるかな?」など、結果を共有し、次に繋げるポジティブな声かけを心がけましょう。予測が外れたことを責めるのではなく、「一緒に考えてみようね」という姿勢が大切です。
- 複数の活動の段取りを考える:
- 少し慣れてきたら、「学校に行くまでに、顔を洗って、着替えて、朝ごはんを食べて、歯磨きをする。全部で何分かかるかな?」のように、いくつかの活動を組み合わせた時間の見積もりを練習します。
- 視覚的なスケジュール表を活用し、それぞれの活動にかかる時間を見積もり、合計時間を計算してみましょう。予備の時間を設けることの重要性も伝えると良いでしょう。
- ゲーム感覚で取り入れる:
- 「お片付け競争!タイマーが鳴るまでにどれだけ片付けられるかな?」など、ゲームの要素を取り入れることで、楽しみながら時間の意識を高めることができます。勝ち負けにこだわるのではなく、「どれだけできたか」「前回より早くなったか」など、お子さん自身の頑張りに焦点を当てて褒めましょう。
4. 時間に関連する肯定的な経験を積む
時間に合わせて行動することにポジティブなイメージを持たせることが大切です。
- 時間内にできたことを具体的に褒める:
- 「タイマーが鳴る前に準備ができたね!すごいね」「今日の朝は、予定通りに家を出られてよかったね」など、時間やスケジュールに関連してできたことを具体的に、惜しみなく褒めましょう。達成感を味わうことで、次も頑張ろうという意欲に繋がります。
- 時間管理で得られるメリットを伝える:
- 「時間通りに準備ができたから、好きなテレビを見る時間ができたね」「早く終わったから、もう少し公園で遊べるね」など、時間管理ができることによって得られるメリットや、楽しめることが増えるといったポジティブな結果を伝えましょう。
5. 応用・発展的な視点:将来を見据えたサポート
時間の感覚のサポートは、単に遅刻を防ぐだけでなく、将来の自立に向けた重要なスキル習得にも繋がります。
- 長期的なスケジュールの理解:
- 一日のスケジュールだけでなく、週や月のスケジュール(習い事、病院の予約、特別なイベントなど)をカレンダーやアプリで共有し、見通しを持つ練習をしましょう。「来週の〇曜日には△△があるね」など、先の予定を意識する声かけを取り入れます。
- セルフマネジメントへの移行:
- お子さんの年齢や特性に合わせて、少しずつ自分で時間を意識し、管理する練習を取り入れます。最初は保護者がサポートし、慣れてきたら「次に何をすればいいかスケジュールを見てみよう」「あと何分あるかタイマーで確認してみよう」など、自分で確認するよう促します。
- 学校の宿題や長期休暇の課題など、締め切りがあるものについて、逆算して計画を立てる練習をサポートします。最初は一緒に計画を立て、実行状況を確認しながら、徐々に自分で計画を立てる機会を増やしましょう。
- 社会的な時間のルールの理解:
- 「電車は決まった時間に発車する」「お店は決まった時間に開いて閉まる」など、社会生活における時間のルールや重要性について、具体的な場面を通して伝えます。なぜ時間管理が大切なのかを、お子さんの興味や理解度に合わせて分かりやすく説明しましょう。
専門機関との連携の重要性
家庭でのサポートに行き詰まりを感じる場合や、時間の困りごとが日常生活に大きな影響を与えている場合は、一人で抱え込まずに専門機関に相談することも重要です。児童発達支援センターや放課後等デイサービス、地域の相談窓口、医療機関などでは、お子さんの特性や発達段階に応じた専門的なアセスメントや、より具体的な支援方法に関するアドバイスを受けることができます。学校の先生やスクールカウンセラーに相談し、学校生活における時間管理のサポートについて連携を図ることも有効です。
まとめ
発達障がいのあるお子さんにとって、時間の感覚を掴むことは容易ではありません。しかし、これはお子さんの個性の一つとして捉え、焦らず根気強く、家庭で具体的なサポートを続けていくことが大切です。時間を「見える化」し、体験を通じて理解を深め、成功体験を積み重ねることで、少しずつ時間の感覚を身につけていくことができます。
今回ご紹介した応用的なヒントが、お子さんの時間の困りごとを和らげ、将来の自立に向けた大切な一歩となることを願っております。お子さんのペースに合わせて、無理のない範囲で、楽しみながら取り組んでみてください。そして、困ったときはいつでも専門家や周りのサポートを頼ってください。