【経験者向け】発達障がい児の視覚情報の「理解」をサポート:特性に合わせた家庭での応用ヒントと声かけ
発達障がいのあるお子さんのサポートを家庭で実践されている保護者の皆様は、日々の様々な場面で、視覚的な分かりやすさがお子さんの理解を助けることを経験されていることと思います。絵カードやタイマーといった基本的な視覚支援ツールは、すでに取り入れていらっしゃるかもしれません。
この記事では、さらに一歩進んで、発達障がいのあるお子さんの多様な視覚情報処理の特性を深く理解し、それに基づいた応用的な家庭でのサポートや声かけのヒントをご紹介します。単に情報を「見せる」だけでなく、見た情報を「処理」し、「理解」につなげるための具体的な方法に焦点を当てます。
発達障がいのあるお子さんの視覚情報処理の多様な特性
一口に「視覚情報処理」と言っても、その特性はお子さんによって様々です。基本的な知識として、視覚優位のお子さんがいる一方で、視覚情報処理そのものに困難を抱えるお子さんもいます。応用的なサポートを考える上で、どのような特性があるかを知ることは重要です。
- 全体像と細部の捉え方: 全体よりも細部に目が行きやすい、あるいは細部を見落としやすいなど、情報の焦点を合わせるのが難しい場合があります。
- 情報の順次処理と同時処理: 複数の視覚情報を同時に処理するのが得意な場合、あるいは一つずつ順番に処理しないと混乱する場合などがあります。文字や図で示された複数の指示を一度に理解するのが難しい、といった形で現れることがあります。
- 情報の取捨選択: 膨大な視覚情報の中から、必要な情報だけを選び取り、不要な情報を無視するのが難しい場合があります。情報過多な環境では、混乱したり圧倒されたりしやすくなります。
- 抽象的な情報の理解: 目に見えない概念や、図形、記号などが持つ意味を理解することに難しさがある場合があります。
これらの特性は単独で現れることもあれば、複数組み合わさることもあります。お子さんが「見る」こと自体に問題がなくても、見えた情報を脳で整理・解釈し、意味を理解するプロセスに特性があることを理解することが、応用的なサポートの出発点となります。
家庭で実践できる応用的な視覚情報「理解」サポート
基本的な視覚支援に慣れてきたら、お子さんの特定の特性に合わせて、情報提示の方法や声かけを工夫してみましょう。
1. 情報提示の「質」を高める工夫
単に絵や文字で示すだけでなく、情報の「分かりやすさ」を追求します。
- 情報の分解と段階化: 複雑な手順や長い説明は、細かく分解し、一つずつ順番に見えるように提示します。ステップごとに絵や写真、短い言葉で示し、完了したらチェックを入れる仕組み(チェックリスト)などが有効です。
- 例:「洗濯物を畳む」→「①Tシャツを半分に折る」「②袖を内側に折る」「③もう半分に折る」「④引き出しに入れる」のように、写真付きのステップガイドを作成する。
- 抽象概念の視覚化: 「自由時間」「休憩」「宿題」といった抽象的な概念や、時間、感情など目に見えないものを視覚的に表現します。
- 例:「自由時間」を具体的な活動(ゲーム、読書など)のアイコンで示す。「休憩」の残り時間をタイマーや砂時計で見せる。「怒り」や「悲しみ」といった感情を表情カードや色の濃度で表現する。
- 情報の構造化と強調: 重要な情報や関連する情報が一目で分かるように、色分け、枠線、矢印などを使って構造化します。特に見てほしい部分を大きく表示したり、色を変えたりするのも効果的です。
- 例:時間割で、特に持ち物が必要な授業を色付きの枠で囲む。買い物リストで、お子さんが担当する項目を太字にする。
- デジタルツールの活用: タブレットアプリや動画なども強力な視覚支援ツールになります。特定のスキル(歯磨き、料理の手順など)の手本動画を見せる、スケジュール管理アプリを使う、概念を説明するアニメーションを見せるなどが考えられます。お子さんの興味を引きやすい媒体を選ぶことも重要です。
2. 視覚情報と連動させた声かけのコツ
視覚支援だけではなく、声かけも組み合わせることで、理解をさらに深めます。
- 視覚情報を指さしながら説明: 提示した絵、文字、図などを指さしながら説明することで、お子さんの注意を特定の情報に集中させます。「この絵を見て、次はこれだよ」のように、目で見ているものと耳で聞いている情報を一致させます。
- 言葉の「具体性」を高める: 抽象的な指示や比喩表現は避け、具体的で明確な言葉を選びます。「ちゃんとやってね」ではなく、「このプリントのここ(と指さす)に、鉛筆で名前を書いてね」のように伝えます。
- 理解度を確認する問いかけ: 一方的に説明するだけでなく、「これはどういう意味かな?」「次は何をする?」など、お子さんが視覚情報をどのように理解したかを確認する問いかけをすることで、誤解を防ぎ、理解を深める手助けをします。
- ポジティブな声かけとの併用: 視覚支援を使って目標が達成できた際には、「ToDoリストのこれ、できたね!すごいね!」のように、視覚的な成果と肯定的な評価を結びつけることで、モチベーションを高めます。
3. 環境の調整と見通しの視覚化
情報過多な環境は視覚情報の処理を困難にします。また、先の見通しが立たないことは不安につながります。
- 視覚刺激の調整: 部屋の壁に貼るものを限定する、色の氾濫を避けるなど、落ち着いて過ごせる視覚環境を整えます。必要な情報だけを提示し、終わったものは片付けるルールを作ることも有効です。
- 長期的な見通しの視覚化: 日々のスケジュールだけでなく、週、月、さらには長期休みの予定や、進学・進級といったライフイベントもカレンダーやタイムラインで視覚化します。これにより、お子さんは先の見通しを持ち、変化への不安を軽減し、心構えをすることができます。
ケーススタディ:手順理解の困難への応用
例:宿題のプリントや料理の手順など、複数のステップがある作業の指示を言葉で聞いても覚えられず、癇癪につながってしまうお子さん。
- 基本的な支援: 手順を簡単な絵カードで示す。
- 応用的な支援:
- 絵カードに加え、各ステップの重要なポイントを短い言葉で添える。
- 手順全体を写真で撮影し、ステップごとに並べたものをクリアファイルに入れるなどして、いつでも参照できるようにする。
- デジタルツールを活用し、手順を動画で撮影しておき、作業前に見返す習慣をつける。
- 手順が複雑な場合は、大きく3つのパートに分け、各パートの終わりに休憩を視覚的に示す(タイマーや「休憩」アイコン)。
- 「この順番でやろうね」と声かけながら、指でステップをなぞる。完了したステップには大きな✓マークを自分で書かせる。
このような応用的な工夫により、お子さんは言葉だけの指示に比べて圧倒されにくくなり、自分のペースで手順を確認しながら作業を進めることができるようになります。
専門家との連携と相談
お子さんの視覚情報処理の特性や、どのような視覚支援が最も効果的かは、個々によって大きく異なります。迷う場合や、家庭での工夫だけでは難しいと感じる場合は、専門機関(児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、病院、相談支援事業所など)に相談することが重要です。作業療法士や言語聴覚士といった専門家は、お子さんの特性を詳細に評価し、より専門的で個別化された視覚支援の方法について具体的なアドバイスを提供してくれます。学校や他の支援機関とも連携し、一貫したサポート体制を築くことで、お子さんの理解はさらに深まります。
まとめ
発達障がいのあるお子さんへの視覚支援は、単なる「道具」ではなく、お子さんの世界をより「分かりやすく」、そして「安心できる」ものに変えるための重要な手段です。視覚情報処理の多様な特性を理解し、お子さんに合わせて情報提示の方法や声かけを応用することで、コミュニケーションは円滑になり、混乱や不安は減り、自立に向けた様々なスキル習得をサポートすることができます。家庭での日々の工夫を積み重ねることで、お子さんは自分を取り巻く世界をより深く理解し、自信を持って生活できるようになるでしょう。